如月さんとのデートは、本当に楽しくて。
さり気ない気遣いができて、何をさせてもスマートで、優しくて、笑顔を絶やさない如月さん。
常に私を楽しませようとしてくれて、色んな話を聞かせてくれた。
だけど───。
確かに楽しかったのに。
それなのに、やっぱり……ふとした瞬間に私の頭をチラついて、忘れさせてくれない蒼真の存在に胸が苦しくて。
きっと今日1日、心の底から笑えていなかったんだ。
如月さんは、どこまでも優しくて、強くて。
私なんかにはもったいないくらい良い人。
如月さんも、どうかお幸せに。
〜西園寺家〜
あれから送るという如月さんに首を横に振って、滅多に歩くことのない距離を歩いて帰ってきた。
いつもは絶対に送迎の車があるから、自分の足で歩くって、何だか新鮮な気持ちだった。
つい、蒼真を前にして強がってしまった。
ペラペラと息継ぎも忘れて喋ってから、ふと我に返って項垂れる。
……バカだな、私。
素直にやっぱり蒼真が好きだって言えたらいいのに。
このままじゃ蒼真に八つ当たりしてしまいそうで、慌てて蒼真に背を向けた私は
───グイッ
強い力で引き寄せられて、次の瞬間には蒼真の腕の中に。
驚いて目を見開いた私に、蒼真の綺麗に整った顔がまるでスローモーションみたいに近づいて
唇に、ほんの一瞬、触れるだけのやさしいキスをした。
ギュッと私を抱きしめる蒼真の腕に、これは夢なんかじゃないって実感する。
嬉しくて、嬉しくて……どんどん溢れる涙は止まることを知らない。
もうきっと、交わらないんだと思ってた。
蒼真とは結ばれない運命なんだって……。
だけど、蒼真も私を好きだって言ってくれた。この先、これ以上の喜びにはもう出会えないんじゃないかってくらい、幸せで満たされていく。
お父さん、昔から蒼真のこと大好きだったもんな。執事としてじゃなく、1人の男の人として蒼真のことを認めてくれたんだね。
嬉しくて、思わず蒼真にギュッと抱きつけば、グイと肩を押されて引き離される。
幼なじみでも、執事とお嬢様でもない……新しい私たちの輝きに満ちた未来が幕を開けた。
形は変わっても、これからもずっと私のそばにいてね。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。