零くんが言うのだから、そうなのだろう。
私は、想太が零くんに預けたというメッセージを見せてもらうことにした。
【桜野想太は、罪深い人間だ】
【彼は自分本位で、大切なあなたを傷つけた】
【それでも、あなたには幸せになってほしいと願っていた】
【あなたのすぐ近くに、この先ずっと大切にしてくれる人がいる】
【あなたとその人に、永遠の幸せが訪れることを、桜野想太も願っている】
全文を読んで、言いようのない切なさが、喉元に込み上げてくる。
零くんは苦笑を浮かべる。
私は首を横に振って、もう一度「ありがとう」と伝えた。
葬儀の日、零くんが私に「今でも、想太のこと好きなの?」と確認したのには、複雑な背景にあったのだ。
零くんの必死な顔を初めて見た。
改めて告白されると、心が揺らいでしまう。
今でも想太が好きなことに変わりはないけれど、想太や私を真っ直ぐに、真剣に思ってくれる誠実な零くんのことも、大好きだ。
彼となら、想太の思いを共有しながら生きていける。
私たちは、涙を拭いながら笑い合った。
また想太の遺影に会いに行こうと約束して、互いの存在と体温を確かめるように手を繋ぐ。
それは恋人同士でも、家族でもない、不思議な温もり。
もしかしたらこの先、想太が願ったように、私は零くんと幸せになるのかもしれない。
それでも、私が罪悪感を抱かないように、想太は配慮してくれたのだ。
想太の愛情と思いを胸いっぱいに満たして、私はようやく、前を向いて歩き始めた。
【完】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。