第5話

出会いの場所
3,069
2019/08/28 09:09

送り主の候補を考えてみる。


やっぱり、零くんが真っ先に浮かんだ。


想太の親友であり、私たちのよき理解者だから。


でも彼は、想太が私を振った理由については話そうとしなかった。


零くんは、普段からクールで口数も少ないけれど、誠実で思いやりに溢れた人だ。


こんな、嫌がらせにも似た回りくどいやり方はしないだろう。
永沢 胡桃
永沢 胡桃
(どうして、こんなメッセージを送ろうと思ったんだろう)

それから数日、私は考えに考えた。


匿名アカウントからも、何のアクションはなかったため、知りたいならとことん調べるしかない、と私は決意した。



***



そして週末の土曜日、私は再び地元へと戻ってきた。


あのメッセージの送信者を探すための方法をいくつか検討してみたけれど、私と想太の共通点を辿っていくしかない、という結論になったのだ。


実家の両親は、私に何かあったのかと案じていたけれど、私は二人を安心させるように笑った。


まず訪れるべきは、私と想太が出会った原点――学習塾だ。
永沢 胡桃
永沢 胡桃
こんにちはー……
田辺先生
はい、こんにちは。
ご用件は……って、永沢さん?
永沢 胡桃
永沢 胡桃
あ、田辺たなべ先生。
お久しぶりです
田辺先生
ほんと、久しぶりね! 今日はどうしたの?
あっ……!

そこまで口にして、彼女は察したように口をつぐんだ。


田辺先生は、私が通っていた当時も働いていた女性職員だ。


私と想太は、数学の授業でお世話になっていた。
田辺先生
桜野くんのことは、残念だったね……
永沢 胡桃
永沢 胡桃
……はい

彼女のことなので、当然想太の事故死のことも知っていた。


葬儀の前日、彼女は通夜に参列したそうだ。
田辺先生
永沢さんは、大丈夫?
永沢 胡桃
永沢 胡桃
まだ平気ではないですが……大丈夫ですよ

無理に笑って返すと、田辺先生は唇をぎゅっと結んで、切なげに目を細めた。
田辺先生
二人、付き合ってたでしょ?
永沢 胡桃
永沢 胡桃
えっ! ご、ご存じだったんですか?

私と想太は、付き合っていることを特に言いふらすこともしなかったし、どちらかというと零くんも一緒にいることが多かった。


気付かれていないと思っていたけれど、田辺先生はさすがだ。
田辺先生
なんとなく雰囲気でね。
でも、三年生の冬に二人の関係がよそよそしくなって……受験を考えて別れたのかなって思ってた
永沢 胡桃
永沢 胡桃
受験だからって理由なら……よかったんですけど
田辺先生
違うの?
永沢 胡桃
永沢 胡桃
理由は私も分からないんです。
あの、当時の想太から、私について何か聞いてませんか?
田辺先生
うーん……

駄目元で質問してはみるけれど、やはり彼女は何も知らなかった。


私にはかたくなに理由を言わなかった想太が、塾の講師に隠し事を話すというのも考えがたい。
田辺先生
真面目で爽やかで頭もいいのに、なんか不思議な雰囲気のある子だったよね……。
何を考えているか分からないというか
永沢 胡桃
永沢 胡桃
そう、ですね
想太に出会った時のことは、今でも鮮明に覚えている――。

【第6話につづく】

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