第3話

今でも好き
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2019/08/14 09:09

想太の遺影は、白く綺麗な花に囲まれていた。


焼香の順番を待っている間、私はそれをぼーっと眺める。


未だに、信じられない。


想太がもう、この世にいないなんて。
想太の母
胡桃ちゃん……?

想太の母親が、私に気付いて声を掛けてくれた。


家には何度か遊びに行ったけれど、まだ覚えていてくれたのだ。


胸がきゅっと締め付けられる。
永沢 胡桃
永沢 胡桃
ご無沙汰しております。
この度は、本当に……ご愁傷様です
想太の母
来てくれてありがとう。
きっと想太も喜んでるわ。
お別れを、言ってあげてくれる?
永沢 胡桃
永沢 胡桃
……はい

互いに深く頭を下げて、私は焼香台へと進んだ。


想太のお母さんにはああ返事したけれど、別れの言葉など、今はまだ浮かんでこない。


どうして、なんで――心の中で疑問ばかりをぶつけていた。



***



葬儀が終わり、会場の外に出ると、私は零くんの姿を探した。


みんなが黒い服を着ているせいで、すぐには見つからないと覚悟していたけれど、意外と近くにいた。


今は、同級生らしき子たちと、神妙な顔で何やら話し込んでいる。
河端 零
河端 零
あ、胡桃。
ごめん、みんな。
また連絡する
同級生たち
ああ、分かった
同級生たち
零もあんまり気を落とすなよ

私に気付いた零くんは、会話を切り上げてこちらへとやってきてくれた。
永沢 胡桃
永沢 胡桃
えっ……あ、よかったの?
河端 零
河端 零
うん。
あいつらにはいつでも会えるから。
胡桃の方こそ、どうした?

ここにはほとんど知り合いのいない私を、思いやってのことだろう。


零くんのこういう優しいところは、以前から変わっていなかった。


だから、今なら聞ける気がした。
永沢 胡桃
永沢 胡桃
あのね、想太が私を振った理由、零くんなら何か知らない? 気付いたこととか、些細ささいなことでもいいから

数年前、想太に振られた時は、本人にどんなに理由を聞こうが教えてもらえなかった。


零くんが知っている可能性も低かったけれど、私は今、どうしても知りたい。
河端 零
河端 零
……ごめん。
何も知らない

私の期待もむなしく、零くんはゆっくりと首を横に振る。


実際に何も知らないのか、想太に口止めされているのかも分からない。


もどかしさと切なさで、どうにかなりそうだ。
永沢 胡桃
永沢 胡桃
っ……

涙で視界がぼやけ、足下が崩れ落ちそうな感覚になる。


零くんはすかさず、ふらつく私の腕をとって支えてくれた。
河端 零
河端 零
今でも、想太のこと好きなの?

少しかすれた声でそう聞かれて、私は頷く。


初恋だった。


ずっと一緒にいられると、当時は信じて疑わなかった。
河端 零
河端 零
……そっか

零くんは喉から絞り出すような声を出して、それからしばらく、私に寄り添っていてくれた。

【第4話につづく】

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