第10話
思い出を共有できる人
零くんの言っている内容も、意図も分からず、私は呆気にとられた。
なぜ、想太が送信した、などと思えるのか。
零くんは、滅多に冗談など言わない人だし、想太のことでふざけるとも思えない。
私が真剣にそう返すけれど、零くんは納得していないようだった。
私が使っているSNSには、確かにその機能がついている。
ならば、零くんが言っていることも、一理あるのだ。
しかし、わざわざ匿名にする理由も不明だし、想太は不慮の事故で亡くなったのであって、自分が命を落とす運命にあることなど分かるはずもない。
その上、匿名アカウントは誰かの手によって退会されたのだ。
今、生きている誰かが操作しないと難しい。
私は、そう結論づけた。
考えに同意してくれただけでなく、零くんが心配してくれるのが、ただ単純に嬉しかった。
想太との思い出を共有できる、唯一の友人だ。
零くんのおかげで、久しぶりに笑えた気がした。
喫茶店のマスターとその奥さんの通夜に参加するため、私たちは一度、それぞれの実家に帰宅することにした。
でも零くんは、「心配だから胡桃を家まで送る」と言って譲らず、私もそれに甘えさせてもらった。
***
通夜からの帰り道、零くんがそう提案してきて、私は大きく頷いた。
葬儀では想太の母親と顔を合わせたものの、元カノという立場上、一人で家を訪問するのは勇気が足りなかったのだ。
再び実家の前まで送ってくれた零くんに何度もお礼を言って、私は玄関を開けた。
父も母も、想太のことを話題にはしないけれど、私の心情を気遣ってくれていた。
もう、暗い顔ばかりしていられない。
両親には笑顔を見せた。
晩ご飯はおいしかったし、家族と一緒だと不思議と安心できる。
その後、正月以来、数ヶ月ぶりに自分の部屋へと戻った。
葬儀の日はここに寄ったものの、当日中にまた向こうに戻ったので、ゆっくり過ごす暇がなかったのだ。
楽な格好に着替え、母が干してくれたふかふかの布団に突っ伏した。
寝返りを打ち、仰向けになって天井を眺めながら、私は想太との思い出をなぞっていった。
【第11話につづく】