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第1話

【プロローグ】ウシ、ちょっと自殺してくる
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2021/05/09 11:19
2016年7月18日。海の日。

日も沈み、辺りは真っ暗。

オレ以外、この近隣には誰もいない。

とある海岸の崖の上で、オレは自殺の準備をしている。
ウシ
ウシ
オレの人生、どこで間違っちゃんたんだろう…
きっかけは、些細なことだった。

一年間付き合った彼女にフラれただけ。

ただ、それだけのことなんだ。
ウシ
ウシ
あのとき「こころのビョーキ」のことカミングアウトしなければ…
こんなことにはならなかったのかな…
ウシ
ウシ
それとも、オレの家族のこと言わなきゃ良かったのかな…
正直、フラれたというよりは『拒絶された』という印象が強い。

「あなたの存在、そのものが無理」と宣告されたような気がして、オレがこの世にいる意味を見出せなくなった。
ウシ
ウシ
なんか、だいぶん酔いがまわってきたな
オレが今手にしているのは、900mlのミカン酒の瓶だ。

昼間、近くの売店で買ってきた。

普段は酒など全く飲まないが、今は飲まずにはいられない。

だって、高いところから飛び降りるんだから。

酒の力を借りないと、オレは一歩を踏み出せない。
ウシ
ウシ
さて、そろそろ逝くか…
しかしながら、この崖かなり高いな…怖い
崖の下をそーっと覗くと、剣山のような岩肌がそそり立っていた。

あの場所に落ちたら、頭蓋骨が割れて即死するだろう。

そして、そのまま波に流されて、海の藻屑となって消えていくだろう。

オレの死に様はそれでいい。

誰の目にも触れることなく、この世を退場していきたい。

そう思った。
ウシ
ウシ
この酒瓶を地面に置いたら、助走をつけよう…
恐怖を振り切るため、オレは残りのミカン酒をぐいっと一気に飲み干した。

そして、酒瓶を置いた瞬間、右足で地面を大きく蹴った。

助走スタート地点から崖先まで、2メートルくらいの距離しかない。

あと数歩地面を蹴れば、この世から消えることができる。

恐怖を感じる反面、早くこの世から消えたい。

この悲しみから解放されたい。
ウシ
ウシ
さよなら…めーこ
さよなら…オレ
さよなら…
30年近く生きてきたが、死の直前に思い出すことは、他になかった。

ただただ、元恋人のことだけが悔やまれる。

でも、もう終わったことなんだ。

もう、終わることなんだ。
ウシ
ウシ
…っ
最後の一歩を蹴り出した瞬間、オレの目下には広々と波打つ海と、切先が尖がった岩肌だけが見えた。

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