2016年7月18日。海の日。
日も沈み、辺りは真っ暗。
オレ以外、この近隣には誰もいない。
とある海岸の崖の上で、オレは自殺の準備をしている。
きっかけは、些細なことだった。
一年間付き合った彼女にフラれただけ。
ただ、それだけのことなんだ。
正直、フラれたというよりは『拒絶された』という印象が強い。
「あなたの存在、そのものが無理」と宣告されたような気がして、オレがこの世にいる意味を見出せなくなった。
オレが今手にしているのは、900mlのミカン酒の瓶だ。
昼間、近くの売店で買ってきた。
普段は酒など全く飲まないが、今は飲まずにはいられない。
だって、高いところから飛び降りるんだから。
酒の力を借りないと、オレは一歩を踏み出せない。
崖の下をそーっと覗くと、剣山のような岩肌がそそり立っていた。
あの場所に落ちたら、頭蓋骨が割れて即死するだろう。
そして、そのまま波に流されて、海の藻屑となって消えていくだろう。
オレの死に様はそれでいい。
誰の目にも触れることなく、この世を退場していきたい。
そう思った。
恐怖を振り切るため、オレは残りのミカン酒をぐいっと一気に飲み干した。
そして、酒瓶を置いた瞬間、右足で地面を大きく蹴った。
助走スタート地点から崖先まで、2メートルくらいの距離しかない。
あと数歩地面を蹴れば、この世から消えることができる。
恐怖を感じる反面、早くこの世から消えたい。
この悲しみから解放されたい。
30年近く生きてきたが、死の直前に思い出すことは、他になかった。
ただただ、元恋人のことだけが悔やまれる。
でも、もう終わったことなんだ。
もう、終わることなんだ。
最後の一歩を蹴り出した瞬間、オレの目下には広々と波打つ海と、切先が尖がった岩肌だけが見えた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。