心底安心したという声色でそう告げる看護師さん。
少し待っていてくださいね、と退室する彼女は、終始彼に無視を決め込んでいた。
彼の方に目線さえ向けようとしないのだ。
一切声を発さない彼も十分に気味が悪かったが、何よりも“そんなことは当たり前”のような雰囲気が受け入れられている光景に悪寒が走った。
気味が悪い、気味が悪い…!!
震える手を布団に隠し入れ、無視を決め込む。
思わず素っ頓狂な声が漏れてしまった。
たったの一年、私が永いと感じていた一年。
呪われているのか…なんて仮説を立てたいほど、私は何とも言えない感情に苛まれる。
再会の嬉しさ。
残された時間への恐怖。
そんなのが混じり合って、私は途方に暮れる。
追い打ち。
耳を疑ってしまった。
布団を取りのけて彼の肩を掴んだ。
酷く淡々とした声色で、全てを言いくるめられた気がした。
つまり、私は叶うはずだった彼の生きる道を断ち切ってまで10数週間の生を受けたのだ。
目の前が、真っ暗になった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。