第3話

二頁目
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2021/08/27 05:28
看護師
バイタルにさして大きな問題はないようですね
心底安心したという声色でそう告げる看護師さん。
少し待っていてくださいね、と退室する彼女は、終始彼に無視を決め込んでいた。
彼の方に目線さえ向けようとしないのだ。
一切声を発さない彼も十分に気味が悪かったが、何よりも“そんなことは当たり前”のような雰囲気が受け入れられている光景に悪寒が走った。
◯◯
…さて
◯◯
続きをお話しましょうか
気味が悪い、気味が悪い…!!
震える手を布団に隠し入れ、無視を決め込む。
◯◯
二人に残された時間は、一年。
◯◯
はっ…?
思わず素っ頓狂な声が漏れてしまった。
たったの一年、私が永いと感じていた一年。
呪われているのか…なんて仮説を立てたいほど、私は何とも言えない感情に苛まれる。
再会の嬉しさ。
残された時間への恐怖。
そんなのが混じり合って、私は途方に暮れる。
◯◯
貴方は半年以上眠っていましたから、実質あと10週間と少しといった具合でしょうか
追い打ち。
耳を疑ってしまった。
布団を取りのけて彼の肩を掴んだ。
◯◯
ねぇ、それってどういうこと!?
私はあと10週間で死ぬの?
もう死んだのに?
◯◯
あなたの死は、この世界では実現していない…ただそれだけです。
更に言うと、主様にもそれは適用されています
◯◯
主様…??
◯◯
えぇ、この世界はこの体の主様…貴女の元彼氏様の願いによって実現したものです
◯◯
…なら、なら!
私はどうなっても構わないから、彼が寿命を全うできる世界にしてよ!
ふざけないでよ、彼の命が短い世界なんて、彼の願いなんかじゃない!
◯◯
…主様は、これを望んだ。
それだけです
酷く淡々とした声色で、全てを言いくるめられた気がした。
つまり、私は叶うはずだった彼の生きる道を断ち切ってまで10数週間の生を受けたのだ。
目の前が、真っ暗になった。

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