岩泉
「お邪魔します」
及川の誘いで俺は勉強会に来た。本当は1人でやりたかったけど、あなたに会えるかもしれない、と思ってOKをしてしまった。
よりによってあなたがいなかったら何かダセぇ…
玄関で彼女の靴を目だけで探していたら及川が小さく笑った。
及川
「ふふふっ、大丈夫だよ、岩ちゃん。あなたならちゃ〜んといるよ ^^ 俺達と同じ様にここで勉強会する、て言ってたし」
岩泉
「そうか... 絶対に橘とだろ」
及川
「ビンゴ☆ あの2人はいつも一緒だからね ^^ あ、今回は拓也もいるみたい」
岩泉
「拓也、て誰だ?」
あなたの周りにそんなヤツ、いたか?」
及川
「遠藤拓也だよ。愛華ちゃんみたいに、幼稚園の頃からの友達。サッカー部に入ってるよ」
岩泉
「じゃぁ幼馴染か...」
及川
「あなたに気があるか心配?」
図星を突かれて少し焦った。
岩泉
「んな訳ねぇだろっ...!」
及川
「素直じゃないな〜 岩ちゃん。でも大丈夫だから安心して。あの3人は大親友なだけで、恋愛感情なんて全く無いから ^^」
岩泉
「何でお前が分かるんだよ...」
及川
「あなたのお兄ちゃんだから☆」
岩泉
「はぁ... まぁ良い。部屋に入るぞ」
及川
「え、あなたに挨拶しないの?」
及川の部屋の前に立つ俺と、あなたの部屋の前に立つ及川は顔を合わせた。
遠藤とあなたの間に親友関係以外何も無い事を確認出来るか...
岩泉
「あぁ、そうだな」
及川はノックして中に入った。
及川
「あなた、ただいま☆ 愛華ちゃんと拓也、いらっしゃい☆」
愛華
「お邪魔しています」
拓也
「徹!久しぶり!」
及川
「いえーい!久しぶり!」
あなた
「お帰り〜 あ、岩ちゃんもいるの?いらっしゃい ^^」
ドアと及川の陰に立つ様な感じでいたのに、俺に最初に挨拶したのはあなただった。
岩泉
「よう」
愛華
「岩泉先輩、こんにちは」
拓也
「こんにちは」
よし、まずは問題無いみたいだな...
挨拶の後にも及川はあなた達と少し話して、勉強会を始めた。
コンコンコン
あなた
「あのさ、3人揃ってよく分からない部分があるんだけど、お兄ちゃんか岩ちゃんに手伝ってもらえるかな?お母さんは買い物で出かけているから...」
あなたが顔を覗かせて訊いた。
及川
「岩ちゃんはもう解き終わっているよね。俺はまだ少し時間がかかりそうだから行ってあげたら?」
岩泉
「分かった」
そう短く返事をしてあなたの後を付いて行った。
ドアから見て、部屋の真ん中に置かれている机の向こう側には橘、横側には遠藤とあなたがそれぞれ座っていた。あなたの隣に座れるためにわざわざ奥まで行かなくて済む。そんな事をしたらどうせ怪しまれるだろうしな...
岩泉
「で、何が分からないんだ?」
あなた
「この問4なんだけど...」
机はそんなに広くない。だからあなたとの距離も短くて、彼女をいつもより近く感じた。それに気付いてドキドキを感じたけど、平然を装って3人の勉強を手伝った。
あなた
「分かりやすい説明だった。ありがとう、岩ちゃん」
愛華・拓也
「ありがとうございます」
岩泉
「大した事じゃねぇよ。年上だし」
あなた
「ううん、相手に伝わる様に説明する、て誰もが出来る事じゃないよ。例えばでたっくんだけど、私より理解出来ている時があっても説明が下手なんだよ!でも岩ちゃんは出来たからスゴいよ」
岩泉
「...ありがとな...」
照れくさくて小さく礼を言った。でも同時に気になる点があった。
遠藤を"たっくん"て呼んでいるんだな... あだ名か... 俺はあなたに名前ですら呼んでもらえてねぇ...
岩泉
「じゃあ俺は戻るぞ。他に分からない問題があったらまた声をかけて良いからな」
あなた
「うん、ありがとう ^^」
笑顔を見せて部屋を出て、心の中でガッツポーズをした。
あなたの役に立ったぞ...!
あなた
「はぁ〜...!」
愛華
「良かったね、あなた ^^」
拓也
「メッチャクチャ嬉しそうだったな〜 ^^」
あなた
「え、顔に出てた...?どうしよう、岩ちゃんに見られてないよね...?」
拓也
「大丈夫なんじゃねぇの?俺はあなたも気持ちも知っているからそう見えたけど、岩泉先輩は気付かなかった様子だったぞ?」
愛華
「でも気付いてもらえるのも良いんじゃないの?アピールする感じで」
あなた
「でも岩ちゃんが私をどう思っているか分からないじゃん...」
拓也
「だからまず思い切って告白すんじゃね?俺は好きな人がいないからよく分かんねぇけどさ」
愛華
「そうだよ、あなた!もうずっと前から好きなんだからさ!」
拓也
「おい愛華、他人事じゃないぞ〜 ^^ お前の場合は徹とだろ」
愛華
「っ...!」
拓也
「ま、お前らを急かすつもりは無いから安心しろ。焦って変な展開になられたら嫌だからな」
愛華
「拓也、優しいー (泣)」
あなた
「ありがとう、たっくん」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!