第8話

恋の夏祭り - デート編
513
2022/03/22 21:24
岩ちゃんと夏祭りに行く前日。


あなた
「ん゛ー...」

及川
「まだ悩んでるの?」

あなた
「そうだよ!暑いからワンピースか、夏祭りだから浴衣か、迷うに決まっているじゃん!」

及川
「岩ちゃんに”可愛い”て言ってもらいたいしね」

あなた
「っ...!それも... そう... かもしれない... けど...」

及川
「どっちでも可愛いと思うよ」

あなた
「それはお兄ちゃんの意見でしょ」

及川
「いいや、岩ちゃんも言うよ、絶対に」

あなた
「...何でそんなに自信がある訳?」

及川
「岩ちゃんをよく知っているし、あなたは本当に可愛いから ^^」


何か説得力が無い...
本当にどっちを着よう...


あなた
「よし、決めた...!」

及川
「おっ...!」





当日。


及川家のインターホンを鳴らす前に深呼吸を繰り返した。なるべく長く一緒に時間を過ごせるために、迎えに行く、と言ったくせに緊張はするし、なによりあなたがどんな格好をするのか気になっていた。普段会う時、彼女は学校から直接俺達の部活に来るから制服姿だ。
あなたの私服を全く知らない訳じゃねぇけど、何かな... デートみたいなお出かけだし、夏祭りだからか... 気になっちまう...


岩泉
「ふぅ...」


覚悟を決めて呼び鈴を押した。


及川
「あ、岩ちゃんじゃない?」


ドアの向こう側から及川の声がして、開けたのもそいつだった。
チッ...


岩泉
「...何でお前が出迎えるんだよ...」

及川
「そう怒らない〜 女の子は準備に時間をかけるの ☆」

岩泉
「女子本人みたいに言ってんじゃねぇよ、クソ及川」

及川
「ヒドい!(泣) まぁ、せっかくのデートの前にピリピリしないの。ほら、あなたも終わったみたいだし」


ガチャッとドアが開いてあなたが自分の部屋から出て来た。
ヤベェ... 可愛い... 綺麗... 眩しい...


あなた
「ゴメンね、待たせちゃって」

岩泉
「全然待ってねぇよ。それに...」


チラッとあなたの格好を見て目を逸した。


岩泉
「可愛く... したかったんだろ...?似合ってるぞ...」


はぁあー、クッソ...!メチャクチャ恥ずかしいじゃねぇか、言うの...!でも褒めたかったし...!


あなた
「あ... うん... ありがとう...」


あなたもちょっと下を向いている様子で、俺達は何か動けないでいた。


及川
「2人とも ☆ 夏祭りは玄関でじゃなくて現場で楽しむの。早く行ってきなよ」

あなた
「そ、そうだよね!行かないと!」


及川に言われてあなたは歩きやすくするためか、簡単な靴を履き始めた。
ナイス、及川...!


岩泉
「じゃあ、行ってくる」

あなた
「行ってきま〜す」

及川
「行ってらっしゃ〜い ☆」





岩泉
「...」

あなた
「...」


何を話せば良いのか分からなくて、隣に並んで歩いているのに沈黙が続いていた。祭り場に着くまでこの状態なのか心配になり始めた頃にあなたが口を開いた。


あなた
「言うタイミングが分からなくて今なんだけど... 岩ちゃんの私服、カッコイイね... サマー男子、て感じ」


浴衣とシンプルな格好で迷って、俺は後者に決めてポロシャツと半ズボンを着ていた。
これに決めて良かった...


岩泉
「サンキュ... お、見えてきたぞ」

あなた
「本当だ」


やっぱりたくさん人が来ているな...
そう思ってあなたの手をそっと、でもほんの少しだけ力を入れて握った。


あなた
「岩ちゃん...?」

岩泉
「混んでるからはぐれないためだ...」

あなた
「そう... だね... ありがと...」


そして手を繋いでいる状態は長く続いた。歩いている時、列に並んでいる時、屋台の品物を見ている時...
ふとあなたの足が止まった。


岩泉
「どうした?ん... 綺麗だな」

あなた
「でしょ?」


あなたが見つけたのは髪飾りを売っている店だった。
1つ1つじっくり見ているから、よっぽど気になっているのかもな...


岩泉
「今日のお土産として1つ買ってやる」

あなた
「え...」

岩泉
「ずっと見ているから、何か欲しいんだろ?で、俺はプレゼントしたい気分なんだよ...」


自分で言っておきながら照れるな、これ...


あなた
「ありがとう... でも私じゃ選べないよ、全部綺麗だから... 岩ちゃんだったらどれが良い?」

岩泉
「え、俺か?俺も全部良いと思うけど... そうだな...」


あなたが着けるなら本当にどれも似合いそうだけど、思い出になる特別な1つを選ぶなら...
目に入ったのは、小さな花がいくつか集まっていて、のれんみたいな飾りが下に付いている物だった。色も淡くて良い感じだ。


岩泉
「これはどうだ?着けてみるか?」

あなた
「うん」

岩泉
「俺がやってあげるから動くなよ?」


クリップ式だから簡単に出来た。


岩泉
「どうだ?俺はスゴく良いと思う...」

あなた
「うん、私も気に入ったよ。ありがとう、岩ちゃん。私、これにする!」

岩泉
「よし。すみません、これお願いします」

お店のおばあさん
「ありがとう ^^ それは伝統的な”つまみ細工”ていう技法で作られたかんざしだよ。お嬢さんに良く似合っているし、お兄さんも素敵なのを選んであげたわね。特別に安くしてあげる ^^」

あなた
「ありがとうございます...」

岩泉
「ありがとうございます...!」

お店のおばあさん
「祭りを楽しんでね ^^」





あなた
「そ、そんなに見ないでよ...」

岩泉
「あ、わりぃ... でも本当に綺麗だから...」


屋台巡りを続行している時に俺はつい、あなたと髪飾りを見つめていたみたいだった。


あなた
「岩ちゃんが私のために選んでくれたしね。本当にありがとう。でもだから、てあまり見ないで欲しいな... 何か恥ずかしいから...」

岩泉
「あぁ...」

アナウンス
「間もなく花火大会が始まります。混雑にご注意下さい」


告知が放送されて時計を見たら、確かにプログラムに載っていた花火の時間に近かった。
いよいよだな...


岩泉
「俺達も行くか。花火は夏祭りのメインイベントだしな」

あなた
「うん」

岩泉
「手、離すなよ」


今度はあなたの手をギュッと握った。
移動中人混みに困る事は無かったけど、見やすそうな場所に着いた時には空いているベンチが無かった。
あなたの事だから最後まで見たいだろうし、ずっと歩いていたから立ったままにさせる訳にはいかねぇのに...


岩泉
「あなた、悪いな... 座る場所が見つかんねぇ...」

あなた
「これくらい大丈夫だよ。歩きやすい靴も履いているんだし。あ、でもあそこの木の下はどう?あまり人がいないよ」

岩泉
「ああ、そうするか」


移動して、腕時計を見た。


あなた
「最初の花火が打ち上げられるまで後どれくらい?」


覗くためか、あなたは上半身を乗り出した。
近い、近い...!


岩泉
「ほんの少しだ」

あなた
「お〜 楽しみ ^^」


ニコニコする彼女はまだ俺にくっついていた。
大会が始まると音が大きくて聞こえにくくなるから... 伝えるなら今だ...!


岩泉
「あなた...」

あなた
「ん?」

岩泉
「俺...」


あなたを優しく退けて、俺の前に立たせた。
やっぱり... 緊張しちまうな... 鼓動が速ぇ...


岩泉
「あなたが好きだ...!付き合ってほしい...!」


ちゃんと目を見て言えたのか分からない。ただ、次に感じたのは力強いハグだった。


岩泉
「あなた...?」

あなた
「岩ちゃん...」

岩泉
「お、おう...」

あなた
「私もね...」


顔を上げたあなたと目が合った。
泣いて... いる...?


あなた
「私も岩ちゃんが好きだよ」

岩泉
「っ...!じゃあ俺達はこれから... 付き合うんだよな... か... カップル... として...」

あなた
「うん...」


はぁ...!ヤベェ... ヤベェ、マジで...!


岩泉
「あなた...」


頭の後ろと腰に手を回してそっと引き寄せた。
顔をお互いに近付けて...

俺達は最初の花火と一緒に初めてのキスを交わした。
それから何回も何回も...

全く... あなたを好きになってからここまで来るのに時間がかかったな...




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