「けほっ、…ン゛ン、っ……げほっ、」
「大丈夫か?顔色が良くない。」
「ああ、先日の任務で冷えたかな。…咳が止まらん。」
「鬼殺は呼吸が要です、熱もあるようですし…しばらく療養をしましょうね。蝶屋敷へどうぞ…」
隊士、それも柱ともなれば呼吸を司る身体の部位は大切にするものだ。あなたも例外なく体調や喉には気を遣っていた。しかしこの半月ほど、大した休みもなく任務に行き、最後の任務が北国だと言っていたから無理が祟ったのだろう。ハンカチで口元を押さえ、せめて他の柱や隊士に移さぬように気を配る。井戸の縁にハンカチを置き、水を飲んで喉を潤してから胡蝶と煉獄が蝶屋敷へと連れて行く。忘れられたハンカチ。手に取る。薄紫の綿のハンカチ。届けなければ、と頭によぎるが、使用した物をそのまま返すのは如何なものだろうか。それに長引かせないよう、鬼殺隊士は療養は丁寧に集中して行う。今届けてしまっては余計に気を使わせてしまう気がする。日を改めた方が賢明だと判断して持って帰ってきてしまった。
「………」
どう扱ったらいいのかがわからない。たった一枚のハンカチと睨み合ってしまう。どうやって返したらいい?俺はこういうのが得意じゃない。どう声をかけたらいいのかが浮かんでこない。それにこの現状、結果的に、あなたの使用済みのハンカチを誰も見ていない隙に持ち帰ってしまっている。そんな事が知れたら失望されてしまうだろうか。それは避けたい。彼は、あなたは俺によく声を掛けてくれる人の一人だ。寡黙で話下手な俺の話を掘り下げたり膨らませてくれたり。上手く返せなくても退屈そうな顔をせずに、言葉が足りなくても解釈した事を確認して理解してくれようとしてくれる。俺にとってとても大切な存在だ。彼と話していると、認められているような気がするから。本意じゃなくとも、こんな事実を知られたら、確実に引かれてしまう。ハンカチを手に取る。微かに湿ったハンカチ。彼が咳き込んだ時に、唾液も飛んで染みているのだろう。固唾を飲む。邪心。すん、と鼻を近づける。彼の匂いがする。鍛練でかいた汗も拭いているのだろうか。汗の匂いも微かにする。深く吸って確かめる。
「、….…、あなた、…」
下履きから自身を出し緩く擦る。深く、彼の匂いを確かめながら、彼が、触ってくれる事を想像して。彼ならどう触ってくれるのだろう。嗅ぐたびに先走りが滲み、水音が静かな部屋に響く。搾るように扱き、先をハンカチで覆う。彼のハンカチに自身の汁が滲んで色が染みる。ぞく、と興奮する。手のひらを乗せてハンカチごと先を包み撫でながら手の動きを早める。
「っ、…あなた、…っ、あなた、出る、出、……、!!…………はぁ、…」
脈を打ち、どくん、どくん、と白濁がハンカチにまとわりつく。そのまま拭き取って内側を見る。白に汚れたハンカチ。彼の唾液と汗が染みたハンカチに、俺の精液が混ざっている。何をやっているんだ俺は。大きくため息をついて、壁にずる、ともたれる。こんなハンカチ返せるわけがないだろうが。
「蝶屋敷の看護はどの医者よりも効くね。」
「もうお変わりないですか?」
「ああ、もう平気。恩に着るよ。」
三日経ち、あなたは完治し療養を終えた。これからお館様の元へ赴くと話しているのが聞こえる。胡蝶が蝶屋敷へ戻り、あなたが一人に。今が機。今しかない。あなたの元へ歩み寄り、包装されたハンカチを渡す。
「水柱殿。……快気祝いかな?」
「…この間井戸に、ハンカチを忘れただろう。…うっかり踏みつけてしまったから、これを。」
「おや、わざわざ新しい物を。…ハンカチくらいいいのに。…ありがとう水柱殿。大切に使うよ。」
片目を閉じた目配せ。大切に使うという言葉。疑いもなく曇りなき言葉に罪悪感が腹の底にズン、とのしかかった。
+++++
ウチには気持ち悪い冨岡しかおらんのか?












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!