『どうか────と─────のそばにいてあげてね』
誰だっけ、あの声の主は
暗くて温かいあの中にいたときに誰かに話しかけられた。
声の主が誰かは知らない
あの中には自分ともう一人誰か…いた、気、がす…る……
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アタナシアside
この世界の私の父親は
本当に狂っていた
ゾクッ
メイドたちから
盗み聞きした情報によると
今、私が住んでいるルビー宮は
元々皇帝の妾たちが住む場所で
いわば皇帝のハーレム!─────
───…だったけど私が生まれた日
皇帝がルビー宮の人々を全員殺してしまったそうだ
私の母親は皇宮の宴会に
招待された踊り子で
皇帝に気に入られ一夜を共にした後
捨てられ……
赤ちゃんの私とあなた、?と言う私の双子の妹も残して死んでしまったらしい
その後皇帝は娘の私まで放置し続けている
だから私を育てたのは自然の力…
ではなくルビー宮にいるメイドたちだ
私や私の妹みたいな赤ちゃんをそんな残酷な皆殺しがあった宮に置いておくなんて…
初めてその話を聞いてから毎晩悪夢を見た
だけど私は悪夢より…───
顔さえ知らない皇帝のほうが怖い
いきなりまたおかしくなって
私と妹も殺しに来るんじゃないの?
この宮にいた人たちを殺したように
怖いから他のこと考えよ
今世の名前は産みの母が
直接つけてくれたらしい
アタナシア(Athanasia)
私みたいな厄介者の姫には
贅沢すぎる名前だけど
よりによってあのロマンス小説
『かわいらしいお姫様』の
悲運の姫と同じ名前だ
皇帝の下でも長生きできるようにって意味の名前だと思うけど
あいにく小説の中のアタナシア姫は
18歳で悲劇的な死を遂げる
それも実の父親の手で!!
ガチャ!
はぁ、また始まった
みんなルビー宮に追いやられてるのは一緒だから悪口はやめましょうよ
これじゃ私がいつも泣きわめいてるみたいじゃない
私みたいに泣かない子がいたら出てきてよ!
リリーも心配するほどなんだから
リリー「喃語は話されるのに…」
皇帝が一度も会いに来ないから厄介者の姫って下に見てるんでしょ
それで悲しいかって?
とんでもない!!
私の目標はこのままずっと今みたいに脇役姫として過ごすこと!
だからお願い
私のこと忘れて
これでも皇宮だから
三色しっかり出るし
べっどもフカフカで心地良いし
愛されない運命だとしても姫暮らしは幸せよ
ひとまず、
このゆりかごから抜け出すのよ
バタバタ
リリー「ご飯も食べて運動も頑張ってスクスク大きくなりましょうね」
怖いわよね。私たちもいつ同じ目に遭うかわからないじゃない
「おぎゃあぁぁ」
ガチャッ、バタン
2話fin
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。