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2019/08/27

第2話

変わり者の少女
少女ー凪音柚葉は、変わった人だった。
いつも、哲学的で、深いことを考えている。
それはきっと、凪音さんが、そんな哲学的なことまで考えざるをえないような過去があるからだろう。




音楽室のベランダで僕らが出会ってから。
僕は、凪音さんとよく話すようになった。
話すことと言えば、近況とか、皮肉とか、やっぱり哲学的な話だとか。
でも僕らは、人の前では決して話さなかった。
何故か?
それは、凪音さんが、人気者だからだ。
凪音さんは、僕の前と、同級生達の前では、全くと言って良い程性格も言動も行動も違う。
同級生達の前では、凪音さんは、明るく、優しく、哲学的な部分など微塵も見せない、やっぱり、クラスに1人はいるありふれた人気者、をしている。
凪音さんに、僕といる時と皆といる時、全然違うね、と言ったら、凪音さんは肩をすくめて、そういうものなんだよ、と言った。
なるほど、と僕は納得した。
別に、凪音さんは演技をしている訳ではないのだ。
ただ、周りが凪音さんを、明るくて、優しくて、成績優秀で、容姿端麗で、やはり人気者だと思っているから、だから凪音さんは、そのイメージに合わせているだけで。
僕の前での凪音さんは、哲学的で、頭はいいけどたまに馬鹿な発想をする人で、なかなかの皮肉屋で、容姿端麗なのは変わらないけど少しだけ、寂しそうだった。
凪音さんと僕は、色んな話をした。
例えば、こういう話だ。

凪音柚葉
凪音柚葉
ねえ、いじめの定義って、何?
凪音さんはある時唐突にそう聞いてきた。
雪川葵
雪川葵
うーん…
僕は、考えながら、近くの窓を仰いだ。
僕らのいる廊下で1番夕焼けが綺麗に見える場所。
綺麗な夕焼けだった。
綺麗すぎて、涙が出そうになるほどに。


あのとき、僕が助けられなかった少女の泣き顔が、一瞬浮かんだ気がした。
雪川葵
雪川葵
いじめ、っていうのは、誰かがいじめだと思った瞬間にいじめになる。
けど、誰もいじめだと思わなくても、いじめであることはある。
結局は、気づいているかいないかなんだよ、多分
僕の言葉に、凪音さんは頷くでもなく、茜色に染まる廊下をゆっくり進み屋上へと繋がる階段を登る。
実は、凪音さんは、屋上に繋がる扉の、錆びた鍵穴ぐらいは針金で開けられるらしい。
話によると、授業を抜け出して屋上にいたことが、何回もあるとか。
けれど、人気者というイメージがあることで、バレたことは1度もないとか。
確かに人気者の凪音さんがこんなことをしているとは、誰も想像出来ないだろう。
人気者というレッテルに凪音さんは助かっていて、そして苦しめられている。
何という矛盾だろう。
けれど、それは正しいことなのだ。
この世界は、矛盾で溢れているのだから。
凪音柚葉
凪音柚葉
気づいているかいないか…その通り。
けどね、私は、別の答えを持ってる
鍵穴を曲げた針金で開けている途中に、凪音さんは突然そう言った。
雪川葵
雪川葵
別の答えって?
ガチャ
扉を開けて凪音さんが屋上へ足を踏み入れる。
僕も、凪音さんに続いて足を踏み入れる。
頭上には、茜色の空。
遮るもののない夕焼けは、こんなに綺麗なのだと、初めて知った。
凪音柚葉
凪音柚葉
いじめなんてこの世界にはないんだよ
凪音さんはぽつりと呟いた。
雪川葵
雪川葵
どういうこと?
凪音柚葉
凪音柚葉
世界がパンで溢れていても、わざわざパンがあるとは言わないでしょ。
そういうこと
雪川葵
雪川葵
…相変わらず、凪音さんの例え話は、よく分からない
凪音柚葉
凪音柚葉
お褒め頂きありがとうございますね
皮肉っぽく凪音さんがべーと舌を出して言う。
雪川葵
雪川葵
まあ、つまりはさ、この世界はいじめで溢れているから、いじめがあるとは言えないってこと?
凪音柚葉
凪音柚葉
そういうこと
ふうっと息を1つ吐いて、凪音さんは続ける。
凪音柚葉
凪音柚葉
きっと、いじめなんていうものはなくならない。それならうつくしいと思える世界はどうやって見つけたらいい?
問いかけのようで、独り言のようで。
凪音柚葉
凪音柚葉
信じるんだよ。
傷つけられたって突き落とされたって、信じ続けるんだよ。
そうしたらきっと、いつか。
うつくしいと思える世界を。
見つけられるはずだから
凪音さんは、夕焼けに手をかざして、呟く。
凪音柚葉
凪音柚葉
それ以外に、方法はないから
鳥肌が立った。
僕の助けられなかった少女もきっと、信じていたんだろう。うつくしい世界というものを。
信じ続けてー


壊れてしまった。
僕が、壊してしまった。


僕はー
凪音柚葉
凪音柚葉
けどね
凪音さんが不意にこちらを向いた。
凪音柚葉
凪音柚葉
信じ続けるのは、辛いよ。
どんどん、自分が壊れてしまうから。
けど、けどね。
きっと、だからこそー
祈るように、凪音さんは両手を組んだ。
凪音柚葉
凪音柚葉
うつくしい世界を見つける為に、自分の『これまで』があるんだよ。
だから、私は、信じる。
うつくしい世界を見つけられるって。
今までも、これからも
やっぱり、凪音さんは、変わっている。
けれど。だからこそ。


何よりも、誰よりも。
うつくしいのだ。



茜色の空の下、僕は、また君を好きになった。