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2019/08/31

第9話

過去と約束と未来の話
夏。
炎天下の夏。
夏休み前数日となった、夏。
僕らはー


雪川葵
雪川葵
早見さん、事情は言えないけど着いてきてくれない…?
早見まどか
早見まどか
え…嫌だけど
雪川葵
雪川葵
そこを何とか…
早見まどか
早見まどか
嫌よ!何よその怪しい声掛けは!
凪音柚葉
凪音柚葉
お願い早見さん。
私のジュースが懸かってるの!
早見まどか
早見まどか
知らないわよそんなの!


見るからに怪しげなことをしていた。



炎天下というのが相応しい今日。
蝉の喧しい声が暑さを倍増させる。
早見まどか。
彼女は、凪音さんと同じ色の黒髪、凪音さんと違う長い髪をハーフアップに結んでいる、まあ凪音さんには及ばないが、ぱっと見目を引く容姿だ。
制服もお洒落な感じに着崩していて、当然のようにスカートは短い。
膝上の長さにしている凪音さんより短い。
瞳も、陽花のくりっと大きい明るい色の瞳と違い、凪音さんの整った綺麗な、けれど哀しげな瞳とも違う、やや吊り目の気の強そうな光の灯る瞳だった。
けれど。
何と言うか…どことなく、無理をしているように見えた。
僕の気のせいかもしれないけれど。
今日は、陽花と、早見さんを送り届ける(?)約束をしてしまったその次の日の放課後だ。
凪音さんの所属する女子バスケ部も、僕の所属するバドミントン部もオフで暇だったので、早速チャレンジ…と思い、3階の3組の教室の前の廊下で、1人で部活の準備をしていた早見さんを直撃してみたが…やっぱり駄目だった。
世の中そう上手くはいかないのである。
凪音柚葉
凪音柚葉
へー、早見さんダンス部なんだあ
凪音さんが、早見さんの手にあったTシャツを見て言う。
この学校の部活は割と盛んで、部活ごとにTシャツがあるらしい。
部活のTシャツということは分かったけれど、どの部活かまでは分からなかった。
さすが、情報通な凪音さん、と言うべきか。

なるほど、ダンス部か。
派手めな外見と合っている。
早見まどか
早見まどか
そ、そうだけど…
バリバリ警戒されている。
そりゃそうか。
ダンス部のTシャツから目を離して凪音さんが不意に問う。
凪音柚葉
凪音柚葉
部活、何時から?
早見まどか
早見まどか
ええっと…4時から。
他のダンス部の皆は委員会とかだからここで暇をつぶすつもりだったのよ
凪音さんが目を光らせたのが分かった。
凪音さんは素早く近くの時計と廊下の人影を確認し、早見さんの肩を掴んだ。
時計はまだ3時20分を差しているし廊下に人影は全く無い。僕も凪音さんも早見さんも暇。
ということは。
凪音柚葉
凪音柚葉
暇、なんだよね?
早見まどか
早見まどか
…そう、だけど…
凪音さんの迫力に、早見さんもタジタジになる。
凪音柚葉
凪音柚葉
よっし、じゃあ私達と暇つぶししよう
早見まどか
早見まどか
…は?
凪音さんは、ぼかんとした表情の早見さんの肩から手を離し代わりに手を掴み、察した僕は早見さんの背後に回った。
凪音柚葉
凪音柚葉
とっても楽しい暇つぶしだから、ね?
雪川葵
雪川葵
そうそう、楽しいよ、多分
凪音さんは早見さんの手をぐいぐい引っ張り、僕は早見さんの背中をぐいぐい押した。
凪音さんのジュース欲しい、という思いには誰ひとりとして勝てないのだ、多分。
早見まどか
早見まどか
ちょ、ちょっと!?
凪音柚葉
凪音柚葉
だいじょーぶだいじょーぶ。
楽しいから
雪川葵
雪川葵
そうそう、楽しいよー、多分
早見まどか
早見まどか
さっきから多分多いわよ!
というかどこ行くのよ!
僕と凪音さんは顔を見合わせた。
同時に首を傾げて言う。
凪音柚葉
凪音柚葉
図書室だよ?
雪川葵
雪川葵
図書室だけど?
僕らの声が重なり、そして早見さんは叫んだ。
早見まどか
早見まどか
何なのよあんた達ーーっっ!!
ジュースに目が眩んだ少女と退屈しのぎをしようとしてる少年ですが、何か?
ー次の日、学校である噂が伝わった。
放課後、1年3組の前の廊下には、叫び声を上げる女の幽霊が出るとか出ないとか。
まあそんなのは僕には関係ない話だ。多分。




という訳で、早見さん、図書室へ強制送還。
図書室の扉を開けて凪音さんが図書室へ踏み込む。
僕と早見さんに、待っているよう手で示し、たたっと軽快に走って行く。
凪音柚葉
凪音柚葉
連れてきたよ
高村陽花
高村陽花
ホント!?
早くない!?
凪音柚葉
凪音柚葉
うん、強制送還してきた
高村陽花
高村陽花
強制送還!?
姿は見えないけれど、微かに、陽花と凪音さんの声が聞こえる。
僕らと陽花は図書室で待ち合わせをしていたのだが、おそらく本を読んで待っていたのだろう。
元気な外見に似合わない…おっと、口が滑った。
まあどちらにしろ、陽花は、もっと時間が掛かるものと思っていたらしい。僕もだが。
凪音さんの強制送還の案を採用して良かった。
不意に、早見さんを見るとー


青い顔で、震えていた。
怖がるように、哀しむように。
早見まどか
早見まどか
…帰る
小さな声で、早見さんはそう呟いた。
軽く眉を上げて答える。
雪川葵
雪川葵
どうして?
早見まどか
早見まどか
私は、陽花に会っちゃいけないの。
私がいたら、陽花を苦しめてしまう…
怯えるように、早見さんが呟く。
ああ、と僕は納得した。
こっちが素か。
気の強い性格も、派手に着飾る容姿も。
鎧のようなものなのだ。
早見さんが権力を持つグループに居続ける為の。
自分が傷つかないという、幼馴染の哀しい願いに、応える為の。

なら。

これは、果たして、ハッピーエンドなのか?
違う。

凪音さんの信じるうつくしい世界は、こんなに哀しくない。
凪音さんの求めるー早見さんと陽花の正解は、こんなに哀しくない。

僕だってー


あのとき。
僕が奈緒を助けていたら。
今も、2人で笑いあえたのだろうか。

あのとき。
もっとうつくしい結末を望んでいれば。


僕はーー
雪川葵
雪川葵
違うよ
僕は、ゆっくりと首を横に振った。
違う。
早見さんは、間違っている。
僕もー間違っていた。
雪川葵
雪川葵
それが、答えな訳がない。
それはーー正解じゃない
早見さんの瞳が、僕を見据えた。
どこか疲れたような、苦しそうな光。
そうだ、これが答えなはずがない。
だって。
雪川葵
雪川葵
だってーーそんなの、哀しすぎるよ
そう。
凪音さんの信じる世界の形が。
凪音さんの求めた答えが。



ーこんなに、哀しいはずがない。
早見まどか
早見まどか
…今更、赦されると思う?
私は、あの子の願いを利用して自分の居場所を守ろうとしたのよ?
…助けてほしかった、はずなのに。
…そんなこと、分かってたのに
似た者同士。
僕は、心の中でそう呟く。
どっちも、意地っ張りなのだ。想い合うが故に。
雪川葵
雪川葵
なら尚更、陽花と話さなきゃ。
話さなきゃ思ってること分かんないよ
早見さんは、顔を上げた。
泣くものかと、唇を噛み締めて。
拳を固く握って。
その姿が、陽花と重なった。
早見まどか
早見まどか
…まだ、間に合うの?
雪川葵
雪川葵
うん、きっと、まだ間に合う
早見まどか
早見まどか
…ありがとう
ぽつりと呟かれた言葉に微笑みを返し僕は頷く。
雪川葵
雪川葵
だって、凪音さんが、そう望んだんだから。それだけのことだよ、早見さん
早見さんは、深呼吸を何度も繰り返し、そして吸う途中で止め、そして言った。
一息に、急ぐように。
頬を真っ赤に染めて。
早見まどか
早見まどか
…まどか、でいいわよ
案外、早見さんはーまどかは、照れ屋なのかもしれない、と頭の片隅がそう零した。
そして、まどかは足を踏み出した。
過去の眠る、約束の物語へと。