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2019/08/31

第10話

さよならは目を見て言おう
私ー早見まどかは、小学4年生のある日、幼馴染の少女、高村陽花と、1つの約束を交わした。
はじまりは、陽花へのいじめだった。
毎日のように、陽花の物が捨てられ、汚され。
教室で、私が陽花を助けようと口を開こうとしたその時。
陽花は、黙って横に首を振っていた。
怖かったはずなのに。
それなのに。
弱々しく、微笑んで。
早見まどか
早見まどか
ーねえ、何でよ。
私にも、陽花を助けさせてよ
私はある日、陽花の家に行きそう言った。
陽花は、また横に首を振った。
私の想いを拒否されてしまった。
そう思い、頭がかっとなった。
視界が、赤く染まったみたいだった。
早見まどか
早見まどか
何でよ!私は陽花を助けたいのに!!
陽花は、また黙って横に首を振った。
そして、静かに口を開いた。
高村陽花
高村陽花
…震えてる
その言葉に、私は数秒動きが止まった。
心臓の音も、外で降る雨の音さえも、聞こえない。
私の手は、震えていた。
陽花の肩を掴んだ手は、情けないほど震えていた。
高村陽花
高村陽花
…いじめられるのは、怖いよ。
まどかも、それを知ってるんでしょ?
だから、震えてる
違う。違うんだ。
私は、ただ陽花をーー
高村陽花
高村陽花
聞いて
陽花は、肩から私の手をゆっくりと離した。
高村陽花
高村陽花
絶対に、私を助けないで。
私はそれを望んでない。
まどかが傷つくのなんて、見たくない
ずっと、一緒にいれると思っていた。
この日々がずっと続くのだとー

そう、思っていたのに。
高村陽花
高村陽花
約束して
嫌だ。そんなのって、ない。
そんなの、私は、嫌だー

そう言えていたら未来は変わっていたのだろうか。
私は、頷いていた。
私を見て、陽花は微笑んだ。
寂しげに、嬉しげに。
怖かった、はずなのに。
高村陽花
高村陽花
ありがとう、まどか


私は自分の居場所を守る為に陽花を助けなかった。
謝らなきゃいけない。
それなのに。
逃げてばっかりで。
これが正しかったんだって。
陽花と約束したからって。
ずっと、言い訳をしていた。
けど。
雪川葵
雪川葵
だってーーそんなの、哀しすぎるよ
そうだ。
これが正解な訳がない。
きっと、まだ間に合う。
そう信じてる。
だから。
終わらせなくちゃ。私達の、約束の、物語を。









私ー高村陽花は、小学4年生のある日、幼馴染の少女、早見まどかと、1つの約束を交わした。

私は、いじめられていた。
怖かった。
けど。
まどかが私を庇ったら、きっとまどかもいじめられてしまう。それは、嫌だった。
確かに、嫌だった、はずなのに。
高村陽花
高村陽花
絶対に、私を助けないで。
私はそれを望んでない。
まどかが傷つくのなんて、見たくない
違う。
本当は、私を助けて、まどかが傷ついて、それで、私が傷つけたことになるのが嫌で。
だから、こんな約束を守らせた挙句、まどかを憎んだりして。
全部、違う。
全部、自己満足だった。

あの時。
一緒に戦おうと言えていたら。
今もまだ、まどかと笑っていられたのだろうか。

あの時。
お互いの痛みを、分かり合おうとしていたなら。



私は。まどかは。



一緒に、うつくしい世界を見られたのだろうか。


まだ、答えは分からない。
けど。だからこそ。
終わらせなくちゃ。私達の、約束の、物語を。








今、まどかが、図書室の机の間を通って、私の方へと歩み寄ってくる。



今、陽花の姿が、少しずつ少しずつ、鮮明になって近づいてくる。




今この世界に、2人だけしかいないみたいだった。






凪音柚葉という少女が、私の横を通って、雪川葵というあの少年のもとへと戻っていった。


早見まどか
早見まどか
…陽花
高村陽花
高村陽花
…まどか
私の声と、陽花の声が重なった。
お先に、という風に息を潜めた陽花。
その姿を見て、溢れてくる言葉を、『形』にしようとする。
早見まどか
早見まどか
…ごめん。
…ずっと、謝りたかったの。
陽花の約束を言い訳にして、陽花を苦しめてたこと。それと。
陽花。あんたを、助けなかったこと
陽花は、また横に首を振ろうとした。
それを遮って、私は言葉を続ける。
早見まどか
早見まどか
もうひとつ。
ーありがとう、陽花
私の言葉に、不意をつかれたように陽花が瞬く。
高村陽花
高村陽花
…何で
ただただ、不思議そうな声だった。
高村陽花
高村陽花
何で、まどかは。
私、まどかに約束させちゃって、傷つけたのに。
何で、謝るの。
何で、まどかが私にありがとうなんて言うの
私は首を振った。
もちろん、横に。
早見まどか
早見まどか
裏切り者の私を、それでも想ってくれて、ありがとう
気づいたのだ。
ずっと、私達は、想い合っていた。
想い合っていたからこそ、すれ違った。

だから。
早見まどか
早見まどか
ありがとう
陽花は、くしゃりと顔を歪めた。
初めて見る、陽花の涙だった。
早見まどか
早見まどか
泣かないでよ、私が悪者みたいに見えるじゃない
高村陽花
高村陽花
お互い様だよ。
だって、まどかも泣いてるもの
陽花の、笑みの混じる声で気がついた。
私も、泣いていた。
高村陽花
高村陽花
ありがとう
今度は、陽花がそう言った。
私達は、顔を見合わせて笑った。









私達の、哀しく優しい約束の物語は、私達の手で、幕を閉じた。










痛い。
頭が、体中が、心が。
陽花と、まどか。
笑い合う2人を見て。
ああ良かったと思ったはずなのに。
痛い。



その痛みの正体もー




もう、自覚せずには、いられなかった。




隣で、凪音さんが微笑んでいた。
いつものように、うつくしい笑顔。



ああ、僕は。


僕は、駆け出した。


凪音柚葉
凪音柚葉
雪川くん!?
驚いたような凪音さんの声を背に、僕は走った。


屋上の鍵が、開いていた。
凪音さんが、閉め忘れたのだろうか。
荒い息を整えて、僕は、空を見上げた。
いつかみたいにうつくしい、夕焼け。

凪音柚葉
凪音柚葉
雪…川、くん
屋上の扉を開けて、凪音さんが僕の名前を呼んだ。
凪音柚葉
凪音柚葉
ーねえ、雪川くん。
話してよ、君のこと。
じゃなきゃ、分かんないよ
僕は、痛みを感じながら、口を開いた。
雪川葵
雪川葵
痛いんだ。
まどかと陽花を見てると。
僕の答えが間違っていたんだ、って。
僕がいなければ。
ー世界は、うつくしかったんだって。
君に、そう言われてるみたいで
言われたことなんて、1度もない。けれど。
君の存在だけで、僕は僕を嫌いになってゆく。







うつくしい君こそが、僕の痛み、そのものだった。





凪音柚葉
凪音柚葉
…それでも、話してよ。君のこと。
話さなきゃ、分かんないよ
雪川葵
雪川葵
君に僕の気持ちなんか分からない。
だって、君は僕とは違うから。
僕と君は。正反対だから。
交われないんだよ。
ー交わっちゃいけなかったんだよ
凪音柚葉
凪音柚葉
違う、違うよ。だって私はー
雪川葵
雪川葵
…もう、帰るよ
凪音柚葉
凪音柚葉
ま、待って!
ねえ雪川くん、お願い、話してよ
尚も言葉を重ねようとする凪音さんに、僕は思わず大声を上げた。




雪川葵
雪川葵
僕は、君にだけは話したくないっ!!





ー凪音さんの顔は、絶望で凍りついていた。
かつての、奈緒のように。



ああ。
やっぱり、僕らは。
出会うべきじゃなかった。



僕らは。


決して、交われないのだ。




雪川葵
雪川葵
ーさよなら、凪音さん