ピンポーン。ピンポーン。
玄関のチャイムの音が聞こえる。
先生か。それとも嫌々来たクラスメイトか。
こりないものだな、と思ってしまうのは
来た人に失礼かも知れない。
ヘッドホンから聞こえる音楽の音量をさらに上げ、
あなたはやっと自分の世界に入れた。
これで何回目だろう。
この罪悪感も、
きっと学校に行った時の辛さと天秤にかければ
圧倒的に軽いのだろうな、と思う。
学校という存在が少し遠くになってきた。
ばっ、とソファに仰向けになる。
ちょうど良い温度感と日の当たりで眠くなり、
あなたはそのまままぶたを閉じた。
かちゃ。かちゃかちゃかちゃ。
がちゃん。
玄関の扉が開いた気がした。
ただねぼけてるだけだ。
そう片付けた。
また誰かが来ていちいち起こされたら面倒くさいので
自分の部屋に戻って眠ることにする。
がたん。
何か物音がした。
今度は絶対気のせいじゃない。
嘘だ。
お母さんは午後に帰ってくる。
今はまだ午前だ。
いや、
何か大事なものを忘れて取りに来たのかも知れない。
しばらくしていかに自分が失態を犯したのか、
あなたは気付くことになる。
たん。たん。たん。
明らかに自分の知る音では無い足音。
階段を上ってきている。
あなたに、迫っている。
かちゃん。
ドアノブが引かれる。
ゆっくり、ゆっくりとドアが開く。
あなたは知らぬ侵入者と一緒になって叫ぶ。
よく見てみればリエーフだった。
再び侵入者を睨んで対峙する。
3人の間に、沈黙が訪れた。
さっきまでの怯えはどこへやら、
急に脅しをかけだす。
ただ、この状況はなかなかやばい。
侵入者はずいっとリエーフに歩み寄ると、
持っていたナイフを彼の目の前でちらつかせる。
リエーフがぎりっと歯ぎしりしたのがわかった。
ふと、
カーテンの裏で何か影が揺らめいた。
黒尾が侵入者を挑発する。
それに乗って侵入者が黒尾に突進し、
気付いた時には侵入者は黒尾の馬乗りの餌食だった。
ナイフで抵抗しようとするのを足で蹴飛ばす。
するとそこに
ちょうど良いタイミングで警察が乗り込んできて、
事件は無事幕を閉じた。
今あなたは再び静まり返ったリビングで、
黒尾とリエーフにお茶を出している。
リエーフは信用しているので、
打ち明けようかな、とあなたは思う。
でも言ったってリエーフを苦しめてしまう。
そう思った。
言いよどむしか方法は無かった。
これ以上人を傷つけちゃ駄目だ。
あなたが学校に行かなくなった1番の理由だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。