俺には、2つ上の兄がいた。
兄は頭が良くて、人柄もよく。
誰からも期待される人だった。
反対に俺は、剣術しか誇れるものがなかった。
その剣術さえも、兄には及ばなかった。
俺の記憶に残ってる中では、
兄が優しかったことなんて無い。
兄と比較し俺を罵倒する親に便乗し、
俺をいつも馬鹿にした。
その感情はいつか兄弟ではなく、
主従関係へと変わっていった。
こんな会話は日常茶飯事だった。
そんな俺の心の癒しは、
友達である大久保肇との時間だった。
肇との出会いは、路地裏だった。
兄の頼まれ事をこなす最中に、
子供達の罵声が聞こえて視線をやった。
そこでは数人の子供たちが、
1人の男の子を取り囲んでいた。
そこで助けたのが、大久保肇だった。
肇は藩主の息子だったけど、
体が弱くて、心優しくて。
なんて言っていた。
兄に虐げられる日々は嫌だったけど、
肇が居れば俺は幸せだった。
そんな日々がガラリと変わったあの日。
兄は俺に命令をした。
一瞬、俺は兄の言っている言葉が理解できなかった。
この人は何を言っているんだ。
兄のクソみたいな野望のために、
肇やその家族が死ぬなんて許せなかった。
俺はすぐに家を出て肇の屋敷へ向かった。
肇の屋敷について、目の前に広がる光景を見て、
俺は膝の力が抜けた。
肇の屋敷は既に火の海と化していた。
この時、俺の兄に対する恐怖心は、
怒りへと変わった。恐怖という文字は、
俺の頭から消えた。
俺は兄を無視して、肇の屋敷へ飛び込んだ。
俺が見つけた肇は、体から血を流して、
今にも意識が途切れそうだった。
俺は、もう手遅れだから。
そう肇が言いたいのが伝わってきた。
俺から見ても、助かると思える状況ではなかった。
俺は、この時新選組に入ることを決意した。
そして、肇を見送った後、俺は家を出て。
江戸へと向かった。
これが俺の、過去の話。
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いつものお詫びに、
2話連続で投稿しました。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。