拓の妹、沙那に話しかけられた神奈は、反射的に、『はじめまして』と返した。彼女の瞳を見つめていると、まるで吸い込まれそうな錯覚に陥る。
どうやら、いつの間にかぼーっとしてしまっていたらしい。それほどまでに、沙那の美貌は、女の子の神奈から見ても計り知れないものだった。
気を取り直して、再び沙那の方へ向かう。神奈が問いかけると、沙那はふわり、と優しそうな微笑みを返した。
沙那が楽しそうに話すのを止めたのは、顔を真っ赤に染めた拓だった。
(神奈)ふふっ。なんか、かわいいなぁ……これが、〝兄妹〟ってやつなのかな……。
2人に目を向けると、『別にいいじゃないですかぁ、おにぃのいじわるうぅ~!!』と頬を膨らませた沙那と、『よーくーなーい。いくら沙那でも、こればっかりは許せん。』と沙那の膨らんだ頬を軽くつねる拓が、仲睦まじい様子を見せていた。
神奈がそれをしばらく眺めていると、拓が神奈の視線に気づく。
拓が沙那にそう問うと、沙那はなぜか、神奈の方をじっと見つめた。
思い当たる節がなく、思わず首を傾げる。
今までとはうってかわり、真剣な表情。それと同時に出てきた静かな圧に少したじろぎながら、神奈は返す。
すると、沙那は、頬を微かに染めながら、心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
そう言い残すと、沙那は、光の速さでひまわりの向こうに消えていったのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!