第57話

6日目-2
45
2021/03/01 04:11
──どのくらい時間が経っただろうか。
勢いに任せて拓に抱きついた神奈だったが、離れるタイミングを見失ってしまった。拓も、顔を赤くしたまま硬直している。
稲汰
稲汰
……ずっと、話してなかったんでしょ?積もる話もあるんじゃない?神奈ちゃん。
稲汰はきっと、そんな神奈に気づいたのだろう。気を利かせて発してくれたその言葉を合図に、神奈は勢いよく拓から離れた。
神奈
神奈
ご、ごめんっ、拓……///
拓
別に……///
2人で、顔を染める。それがなんだか可笑しくて、神奈と拓は、目が合った瞬間笑ってしまった。
少しして笑いが収まった神奈は、稲汰がいつの間にかいなくなっていることに気付く。
『……ずっと、話してなかったんでしょ?積もる話もあるんじゃない?神奈ちゃん。』
さっきの稲汰の言葉が、神奈の脳裏に蘇る。何気ない一言。でも、何よりも大きな一言。
神奈
神奈
ありがとう、なー君っ……
思わず口から零れる。
拓
なんか言ったか?神奈。
神奈
神奈
ううん、なんでもない!
(神奈)きっと、私たちが話しやすいようにこの場から離れてくれたんだよね。なー君は。なー君が作ってくれたチャンス、私、ちゃんと生かすよ……!
神奈
神奈
あのね、拓。私、拓にちゃんと聞いておきたいことがあるの。……話してくれる?“あのこと”について、もっと詳しく。
神奈は深呼吸をすると、拓の瞳をまっすぐ見据えて、そう告げた。
拓も、神奈の言葉を聞くと、真っ赤にしていた顔が嘘だったように真剣になった。
“あのこと”で、拓には十分伝わったはずだ。だからこんなに、真剣な顔を──
拓
わかった。前話した時は、唐突すぎたし、説明も雑だったよな。ちゃんと話すよ。……俺が、ツクモ神だってことについて。
そう。拓が、ツクモ神だということについて。神奈はずっと考えていた。信じようとした。……けれどやっぱり、信じられなかった。
神奈
神奈
お願い。もしあるのなら……あなたがツクモ神だっていう証拠を見せて。
『もし本当だって言うなら、証拠を見せてよ!』
神奈がそう言った瞬間、拓の脳裏には昨日のワンシーンがフラッシュバックした。
拓
憎ったらしいぐらい、よく似てるんだな。お前ら……
神奈
神奈
意味がわからず、神奈は首を傾げる。
拓
なんでもねーよ。……そうだな、証拠っていったらやっぱ、神奈と稲汰が入れ替わったあの冬の日のことでも話すかな。
なんで知ってるの、とでも言いたげな顔をした神奈を視界の端に捉えながら、拓はまた、昨日稲汰にしたものと同じ説明を神奈にし始めた。

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