──どのくらい時間が経っただろうか。
勢いに任せて拓に抱きついた神奈だったが、離れるタイミングを見失ってしまった。拓も、顔を赤くしたまま硬直している。
稲汰はきっと、そんな神奈に気づいたのだろう。気を利かせて発してくれたその言葉を合図に、神奈は勢いよく拓から離れた。
2人で、顔を染める。それがなんだか可笑しくて、神奈と拓は、目が合った瞬間笑ってしまった。
少しして笑いが収まった神奈は、稲汰がいつの間にかいなくなっていることに気付く。
『……ずっと、話してなかったんでしょ?積もる話もあるんじゃない?神奈ちゃん。』
さっきの稲汰の言葉が、神奈の脳裏に蘇る。何気ない一言。でも、何よりも大きな一言。
思わず口から零れる。
(神奈)きっと、私たちが話しやすいようにこの場から離れてくれたんだよね。なー君は。なー君が作ってくれたチャンス、私、ちゃんと生かすよ……!
神奈は深呼吸をすると、拓の瞳をまっすぐ見据えて、そう告げた。
拓も、神奈の言葉を聞くと、真っ赤にしていた顔が嘘だったように真剣になった。
“あのこと”で、拓には十分伝わったはずだ。だからこんなに、真剣な顔を──
そう。拓が、ツクモ神だということについて。神奈はずっと考えていた。信じようとした。……けれどやっぱり、信じられなかった。
『もし本当だって言うなら、証拠を見せてよ!』
神奈がそう言った瞬間、拓の脳裏には昨日のワンシーンがフラッシュバックした。
意味がわからず、神奈は首を傾げる。
なんで知ってるの、とでも言いたげな顔をした神奈を視界の端に捉えながら、拓はまた、昨日稲汰にしたものと同じ説明を神奈にし始めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。