プシュ~……ガチャッ
8月、伊井出神奈は、幼なじみの稲汰の家に遊びに来ていた。右も左も、のどかで同じ風景。スマホの電波も届きにくい場所だが、神奈はこの場所が結構気に入っていた。
ピ~ンポ~ン
ガラララ……
そう言って出迎えてくれたのは、稲汰のお母さんだ。この人は、ノーメイクでもとても綺麗で、優しい人。小さい頃から、ずっとお世話になりっぱなしだ。
……そして、もう1人は──
彼は、沢稲汰。とても頭が良くて真面目な、私の自慢の幼なじみだ。
……そこで、ふと異変に気付いた。
見ると、前まで落ち着いた灰色の目をした稲汰の目が、真っ赤に染まっていた。
稲汰は、少し笑いながら、
稲汰のお母さんは大爆笑。
稲汰が半泣き状態になっているのに気付き、慌てて、
とすかさずフォローする。
それを聞いた稲汰は、いくらか元気を取り戻したようだった。
(神奈)久し振りだな。このやりとり。
懐かしいこの雰囲気に、少し涙が出そうになるのをグッとこらえた。
こうして神奈は、稲汰との半年ぶりの再開を終えたのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!