第27話
2日目-11
元気に家の中に入っていく。
先程までの不安は綺麗さっぱり消え去り、心も足も軽かった。
そんな神奈を出迎えてくれたのは、昼と同じような優しい微笑みを称えた稲汰だった。
……が、神奈の頭の上にあるものを見て、不思議そうに首をかしげた。
(神奈)あっ。ヤバッ。花冠、つけたままだった……。
神奈は少し焦った。この花冠を、『拓からもらった』と言っていいのかを。察しがいい稲汰だから、もしも神奈がその事を話してしまったら、神奈が拓のことを意識してしまったことにも気づかれてしまいそうだと思ったからだ。
だが、そんなことをゆっくりと考えている時間は、神奈には残されていない。神奈は、できるだけ言葉と表情に気を付けながら、正直に話すことにした。
稲汰は、花冠のひまわりを優しく撫でながら笑顔で言った。
(神奈)よ、よかったぁ~!とりあえずは、大丈夫だったみたい。
稲汰の返事を確認した後、神奈は駆け足で2階に上がっていった。
──神奈は、『よかった~!』と安堵しているが、それは大きな間違いだ。
神奈が部屋のドアを閉めた音を聞いてから、稲汰はポツリともらす。
稲汰は、今の会話で、神奈が拓を意識し始めていることに気づいてしまった。そして、顔を見たことがない"拓"に、またヤキモチをやいていた。
だが同時に、見ているだけで何もできない自分に比べて、拓をひどく羨ましがってもいた。
神奈の瞳に、自分が映ることはないと、十分わかっていたから。