第51話

5日目-4
46
2020/12/12 09:19
黒髪の男の子──拓は、乱暴に稲汰の手を振り払った。

「お前、誰だよ……俺様に気安く触れやがって……。初対面で俺様のことを呼び捨てするなんて、よっぽどバチあたりな奴だな……!」

拓はそう言って、稲汰を睨む。……が、少しして、拓は少し表情を緩めた。そしてお次は、怪訝そうな顔をする。

「つーか、なんでお前、俺様の名前を知って……」

稲汰は、終始真顔を貫きながら、拓を鋭く見つめていた。稲汰にとっては、──いや、拓にとっても、お互いがお互いの恋敵なのだから。

「西内拓。本当に、僕のことがわからない?神奈ちゃんから、少しぐらい話は聞いてるんじゃない?」

稲汰がそう言うと、拓はバッ、と顔をあげた。

「まさかお前っ、沢稲汰か……!?」

稲汰は声を発さず、笑顔で肯定する。笑顔といっても、目は笑っていないが。

「いっつも神奈が言ってた“なー君”って、女だったのか!?……てっきり俺様、男だと……」
「僕は男だけど??」

ピシッ。
2人の間に、見えないひび割れができる。

「……ていうか、僕は君と、こんな話をしたいんじゃないんだよね。それ以前に、恋敵である君─西内拓と言葉を交わすなんて、とっても気色が悪い。」

追い打ちをかけるように、稲汰が言葉を紡ぐ。そこには、いつもの優しい稲汰の面影はなかった。

「……はぁ?お前、何言ってんだよ……!意味わかんないこと1人でぐちぐち言いやがって。俺様だって、お前みてぇな奴と話そうなんて思わねえよ。こっちから願い下げだ。じゃあな!」
「まてよ!」

ひまわり畑に稲汰の声が響く。稲汰が今まで出したことがないほど、大きな声だった。幸いにも、神奈はもうすでにここを去っており、2人に気づくことはなかった。

「神奈ちゃんをあんなに傷つけて、なんでそんな平然な態度が取れる!?神奈ちゃんの姿を近くで見ておいて、なんで無視する!?君は人の気持ちがわからないのか!?神奈ちゃんの気持ちに気づいておいて、なぜ意志と反する行動を取る!?君だって神奈ちゃんのことが好きなんだろう!?」

溢れていた想いが、ぶつかる。言葉が、拓に投げられる。──しかし、拓がそれを受け取ることはなかった。

「……お前に、俺の気持ちがわかるのかよ。それに……お前だって……俺と、同じだろう?」

受け取る代わりに、風に乗せて送った拓の声は、──言葉は、稲汰とは違い、とても……

とても、静かだった。









黒髪の男の子──拓は、乱暴に稲汰の手を振り払った。
拓
お前、誰だよ……俺様に気安く触れやがって……。初対面で俺様のことを呼び捨てするなんて、よっぽどバチあたりな奴だな……!
拓はそう言って、稲汰を睨む。……が、少しして、拓は少し表情を緩めた。そしてお次は、怪訝そうな顔をする。
拓
つーか、なんでお前、俺様の名前を知って……
稲汰は、終始真顔を貫きながら、拓を鋭く見つめていた。稲汰にとっては、──いや、拓にとっても、お互いがお互いの恋敵なのだから。
稲汰
稲汰
西内拓。本当に、僕のことがわからない?神奈ちゃんから、少しぐらい話は聞いてるんじゃない?
稲汰がそう言うと、拓はバッ、と顔をあげた。
拓
まさかお前っ、沢稲汰か……!?
稲汰は声を発さず、笑顔で肯定する。笑顔といっても、目は笑っていないが。
拓
いっつも神奈が言ってた“なー君”って、女だったのか!?……てっきり俺様、男だと……
稲汰
稲汰
僕は男だけど??
ピシッ。
2人の間に、見えないひび割れができる。
稲汰
稲汰
……ていうか、僕は君と、こんな話をしたいんじゃないんだよね。それ以前に、恋敵である君─西内拓と言葉を交わすなんて、とっても気色が悪い。
追い打ちをかけるように、稲汰が言葉を紡ぐ。そこには、いつもの優しい稲汰の面影はなかった。
拓
……はぁ?お前、何言ってんだよ……!意味わかんないこと1人でぐちぐち言いやがって。俺様だって、お前みてぇな奴と話そうなんて思わねえよ。こっちから願い下げだ。じゃあな!
稲汰
稲汰
まてよ!
ひまわり畑に稲汰の声が響く。稲汰が今まで出したことがないほど、大きな声だった。幸いにも、神奈はもうすでにここを去っており、2人に気づくことはなかった。
稲汰
稲汰
神奈ちゃんをあんなに傷つけて、なんでそんな平然な態度が取れる!?神奈ちゃんの姿を近くで見ておいて、なんで無視する!?君は人の気持ちがわからないのか!?神奈ちゃんの気持ちに気づいておいて、なぜ意志と反する行動を取る!?君だって神奈ちゃんのことが好きなんだろう!?
溢れていた想いが、ぶつかる。言葉が、拓に投げられる。──しかし、拓がそれを受け取ることはなかった。
拓
……お前に、俺の気持ちがわかるのかよ。それに……お前だって……俺と、同じだろう?

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