第56話

6日目-1
52
2021/02/07 04:48
稲汰
稲汰
『西内拓に、会いに行こう。』
神奈の脳内で、昨日の稲汰の言葉が反芻する。あのとき神奈は、柄でもなく泣いてしまった。
(神奈)よりによって、なー君の前で……私のキャラじゃないんだけどなぁ……
今日は、久しぶりに拓と会うことができるのだ。神奈が、ずっとずっと恋焦がれている、西内拓に。
稲汰
稲汰
神奈ちゃん、そろそろ行くよ?
玄関の方から、稲汰の声が聞こえてくる。
神奈
神奈
あ、なー君!……ちょっと待って?
少しでも、拓の瞳に可愛く映りたくて。不慣れなワンピースに、ひまわりの飾りがついた小麦色の麦わら帽子。蒼い髪には、微かに香水を付けてみた。
部屋の鏡の前で、くるり、と回ってみる。
(神奈)“可愛い”って、思ってもらえるかな……?
扉を開け、玄関に向かう。
神奈
神奈
なー君、お待たせ……///
稲汰の前に出ただけだが、顔が微かに染まるのがわかる。
(神奈)うぅ、恥ずかしい///……でも、なー君の顔の方が赤いような……?
稲汰
稲汰
かわいいっ……!/////
(神奈)えっ、かわいい……?私が?///
稲汰は、顔を真っ赤にしながら、神奈から顔をそむけていた。そんな稲汰を見て、神奈は少し気分がよくなった。
神奈
神奈
……さ、行こうっなー君。ひまわり畑に!
〜*〜*~*~*~*~*~*~*~*~*~
昨日まで真っ暗だったはずのひまわり畑までの道のりが、今日は輝いて見える。今日は隣に稲汰がいるから?それとも──
(神奈)拓に会えるって、わかっているから……?
いつの間にか、ひまわり畑に着く。太陽に向かって、華を広げるひまわり達。その奥には……
稲汰
稲汰
西内拓。神奈ちゃんを連れてきたよ。
ひまわりの中でしか会えない君。西内拓。
拓
神奈っ……!
言葉が、出てこない。今まで会えなかった辛さ。今まで会ってくれなかった怒り。けど、また会えて嬉しい喜び。
拓
神奈っ……今まで避けて、ごめん。でも、嫌いになったわけじゃなくて……
神奈
神奈
たくっ!!
(神奈)だいすき。だいすきっ。だいすき……!
神奈
神奈
また会ってくれて、ありがとう……っ!
稲汰が見ているのも忘れて、神奈は拓に思いっきり抱きついた。

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