第8話

那田蜘蛛山へ出勤
311
2022/10/12 00:34
 あなたが善逸を継子にしてから数週間後。ある任務であなたの屋敷を出て行った善逸は、立て続けに任務が入るために数ヶ月間屋敷に帰らない日々が続いた。
 物音一つしない、静かなお昼時。ここまで静かだと、善逸の鼓膜が破れそうになるほどの叫び声も案外悪くはなかったんだなと、フッと息を吐きながらあなたはそんなことを考えていた。
 そんなある日のこと。
そら
カァーッ
あなた
あ、"そら"
 "そら"はあなたの鎹鴉。流暢な日本語を喋り、あなたの相棒に相応しい鴉である。
 "そら"はあなたの横にやって来ると、脚に巻いていた紙を嘴で器用に解き、それを彼女に寄越した。
そら
我妻善逸からの手紙
あなた
善逸から?
そら
カァーッ
 今まで1枚も手紙を出さなかった善逸からの突然の手紙。
 何かあったのだろうか。
 嫌な汗があなたの背中をツーッと流れる。
 だが手紙を開いた瞬間に、そんな心配は完全なる杞憂で終わった。
あなた
...は?
 4、5枚にも渡る手紙の内容をものすごく簡単に纏めると、こんな感じである。
 鼓の鬼のいる屋敷で石頭と猪頭に会い、"禰󠄀豆子"という嫁ができた。
 もう一度言っておこう。
あなた
は?
 そしてよく見ると下の方には、上とは真反対に丁寧な文字で「少々負傷したため、現在は藤の花の家紋の家で療養中です。あと数日で復帰できます」と書かれていた。
 まあとにかく無事なら良かった。
 呆れ果てながら大きなため息を吐き、手紙を仕舞おうとした時のことだった。
あなた
...ッ?
 ほんの微かに鬼の匂いというか、気配がしたような...気がした。
 だが今は昼。鬼が出るはずがない。
 と、するならば。
 あなたは善逸からの手紙をもう一度手に取り、顔に近づけてみる。
 すると。
あなた
ッ...!?
 ほんのうっすらだが、鬼の香り...というか気配...というか。
 とにかく、鬼殺隊星柱の勘が"いる"と伝えてきた。
 と同時に、なんだかものすごく面倒くさいことに巻き込まれる...かもしれない。ということも伝えてきた。
 その時、空から「カァァァァァッ!!」と鳴きながら鴉があなたの元に降りてきた。
 この鴉は...お館様の鴉...?
こんにちは、あなたさん。これから産屋敷邸へ来ていただけませんか?
あなた
...!!
 すぐに姿勢を正す。
あなた
御意
 いつも傍に置いている日輪刀を持ち、"そら"を肩に乗せ、屋敷を出る。
 手紙のことは、一旦忘れることにしよう。
 あなたはそう決めると、産屋敷邸へ向けて走り出した。

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