第17話

運動不足
558
2022/10/20 11:00
ハック
立てるっすか?
ハック先輩が私に向かって、手を差し伸べてくれた。
あなた
は、はい…!
私は一瞬躊躇ったためらったけれど、そのままハック先輩の手に、自分の手を重ねた。
あなた
(わっ…)
しっかりと私の手を握って、立ち上がらせてくれた。ハック先輩の細い腕に似合わない角張った大きな手に、不覚にもドキッとしてしまった。
ハック
大丈夫っすか?
あなた
大丈夫です!
あなた
うわっ
私は急に立ったことで貧血を起こして、倒れそうになった。
ハック
大丈夫じゃないっすね。しばらくここで休むっすよ
あなた
す、すみません…
私はコンクリートの下から3段目に座り、ハック先輩も同じ段に座った。階段は幅が狭く、動けばぶつかってしまいそうだった。
あなた
ハック先輩
ハック先輩は、ほんの少しだけ私の方を向いた。
あなた
あの、どうして来てくれたんですか…?
裏庭には、滅多に人が来ない。暗いし、汚いし、虫がいるし、正面に井戸はあるし、その奥はお墓だし…こんなところに来る人なんて、ホラー好きか、1人になりたい人ぐらいだと思う。
ハック
たまたまここを通りかかったんっすよ。
あなた
そ、そうなんですね…!
それは、ほぼありえない。ここに来る道は一本道で、両脇にも林があるだけでほかは何も無い。おまけにここの先は行き止まり。たまたま通りかかることなんて…
ハック
はいっす。
あなた
ハック
気まずい。変なことを聞いちゃったから、新しい話題を出す勇気がないし、そもそもそんな話題も思いつかない。初対面みたいな空気感。
あなた
(やばい、急に吐き気が…)
冷静になったら、急に吐き気が襲ってきた。
食後にお腹を殴られたことが原因だと思う。
きっと、立ったらまた貧血で倒れてしまう。かと言ってここで吐くのも嫌だし…
私は必死に口を押えて吐き気が静まるのを待った。
ハック
ど、どうしたんすか!すごい顔色悪いっすよ!
あなた
ハック
お、俺が背負って…
ハック
俺の背中に乗って下さいっす
ハック先輩が私の目の前に背中を向けて屈んだ。
あなた
(ごめんない、乗ります…!)
ハック
(なんか、柔らかいっすね…ってダメっすそんなこと考えたら…!)
ぺしゃん

立ち上がった瞬間、ハック先輩が膝から崩れ落ちた。
ハック
ご、ごめんなさいっす。俺の力じゃ、あなたさんを運べないっす…
ハック
(日頃の運動不足がこんなところで仇となるなんて…)
ハック先輩が暗い顔になって俯く。
あなた
(こっちが申し訳ないよ…)
ハック
タブーさんを呼ぶから、ちょっと待っててくださいっす。
ハック先輩は少し離れたところでスマホを使って電話している。
あなた
(…あ、ちょっとマシになったかも)
私は階段に戻って腰掛けた。
キリン
あなた〜!
あなた
(き、キリン先輩!?)
何故か分からないけれど、キリン先輩が猛スピード走ってきた。タブー先輩が来てくれるんじゃ…?
ハック
あなたさん、タブーさん今手が離せないみたいで、仕方ないから、キリンさんに乗ってくださいっす
あなた
あ、いや(もう大丈夫なんだけど)…
キリン
随分派手に殴ったな〜
キリン
心配すんなあなた!俺に任せろ!
キリン先輩は、私の背後に回り込んで、私の膝裏に手を当てた。
ぐわん
あなた
えっ!?
私の視界が45度回る。そして、膝裏と首に伝わる腕の感覚…
あなた
(これって、お姫様抱っこ…!?)

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