ハック先輩が私に向かって、手を差し伸べてくれた。
私は一瞬躊躇ったけれど、そのままハック先輩の手に、自分の手を重ねた。
しっかりと私の手を握って、立ち上がらせてくれた。ハック先輩の細い腕に似合わない角張った大きな手に、不覚にもドキッとしてしまった。
私は急に立ったことで貧血を起こして、倒れそうになった。
私はコンクリートの下から3段目に座り、ハック先輩も同じ段に座った。階段は幅が狭く、動けばぶつかってしまいそうだった。
ハック先輩は、ほんの少しだけ私の方を向いた。
裏庭には、滅多に人が来ない。暗いし、汚いし、虫がいるし、正面に井戸はあるし、その奥はお墓だし…こんなところに来る人なんて、ホラー好きか、1人になりたい人ぐらいだと思う。
それは、ほぼありえない。ここに来る道は一本道で、両脇にも林があるだけでほかは何も無い。おまけにここの先は行き止まり。たまたま通りかかることなんて…
気まずい。変なことを聞いちゃったから、新しい話題を出す勇気がないし、そもそもそんな話題も思いつかない。初対面みたいな空気感。
冷静になったら、急に吐き気が襲ってきた。
食後にお腹を殴られたことが原因だと思う。
きっと、立ったらまた貧血で倒れてしまう。かと言ってここで吐くのも嫌だし…
私は必死に口を押えて吐き気が静まるのを待った。
ハック先輩が私の目の前に背中を向けて屈んだ。
ぺしゃん
立ち上がった瞬間、ハック先輩が膝から崩れ落ちた。
ハック先輩が暗い顔になって俯く。
ハック先輩は少し離れたところでスマホを使って電話している。
私は階段に戻って腰掛けた。
何故か分からないけれど、キリン先輩が猛スピード走ってきた。タブー先輩が来てくれるんじゃ…?
キリン先輩は、私の背後に回り込んで、私の膝裏に手を当てた。
ぐわん
私の視界が45度回る。そして、膝裏と首に伝わる腕の感覚…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。