第19話

迷子
539
2022/10/22 00:00
莉亜先輩と別れてからしばらくその場に立っていた。
あなた
(なんて親切な人なんだろう…)
あなた
(あ、部活…急がなきゃ)
私はぼーっとしていた意識をシャキッと整えて、部室に向かって歩いた。
あなた
(それにしても、活動内容も分からないまま入部しちゃったんだよなぁ…)
そう、私は普段ハック先輩、キリン先輩、タブー先輩が何をしているのか全くと言っていいほど知らない。
オカルト研究部だからオカルト関係を調べてるんだろうとは思うけど…私は(オカルトは)有名なものしか知らない。
あなた
(ネッシー、口裂け女、トイレの花子さん…)
どれだけ頑張っても出てくるのはせいぜい10個ぐらい。こんなのでも入部できるのか、不安になってきた。
シャボ
!あなた殿!
私が下を向いて歩いていると、左から機械音が聞こえてきた。
あなた
シャボ、さん?
私は顔を上げて左を向く。そこにいるのは見覚えのあるロボット。やっぱりシャボさんだった。
シャボ
ティラ様を、見なかったでありますか?
あなた
ティラちゃん…?
私は教室からここまでの風景を思い出す。

ティラちゃんはそこにはいなかった。
あなた
見てないですね…
シャボ
シャー…そうで、ありますか…
分かりやすく落ち込むシャボさん。
あなた
(なんか、可愛いな…)
そのままシャボさんは立ち去ろうとした。
あなた
待ってください!
シャボさんが振り返って頼りない瞳で私を見た。
私の頭にハック先輩たちの顔が横切る。
部活…あとで謝罪しよう。
あなた
あの、私も一緒に探してもいいですか?
シャボさんの瞳が、すーっと輝きを取り戻していく。そして、大きな口を開けて言った。
シャボ
本当で、ありますか!?
あなた
はい。力になれるかは分かりませんが…
シャボ
シャー!感謝する、であります!
あなた
(すごく嬉しそう…)
私はシャボさんの右側について歩いた。シャボさんは校内のどこかにティラちゃんがいると言った。
シャボ
ティラ様ー!どこでありますかー?
大声で呼びながら首をクルクルと回している。

それにしても、なんでそんなに探してるんだろう?ひとりじゃ行動出来ないようにプログラムされているとか…?
あなた
シャボさん
私が声をかけると、シャボさんは私の方を向いてとてとてと駆け寄ってきた。
シャボ
なんでありますか?
シャボさんの瞳が私を見つめる。
あなた
(シャボさんの目、どういう仕組みなんだろう…って違う違う)
あなた
どうしてティラちゃんを探しているんですか?
シャボ
拙者の充電残量が残り僅かだからであります!ティラ様が拙者の充電コードを持っているのであります!
あなた
そうなんですね…
なるほど…じゃあ結構まずい状況ってことか。ティラちゃんが見つからなかったらシャボさんは電池切れで動かなくなる(私は分からないけど多分そういうことだよね…)。
あなた
じゃあ、急がなきゃいけませんね
私は早足で歩くのを始めた。シャボさんも私の横に来て、同じ速度で動いている。
あなたー!
後ろから誰かの声がする。
あなた
(誰だろう…?)
私は振り返った
あなた
(あっ…)
はなちゃんだ。
私の脳に昼休みの出来事が浮かぶ。
あなた
(怖い…でも、謝ってくれたし、もう反省してるよね…)
あなた
ど、どうしたの_
はな
あなた、両手を出して!
あなた
(?)
私の言葉をさえぎって、はなちゃんが話す。
私は不思議に思いながらも両手を前に出した。
はな
はい、プレゼント!
私の手に、プリント、ノート、ワークがドサドサと置かれた。
あなた
あ、ありがとう…?
プレゼント…?じゃない。土日の課題だ。
はな
それ、ちゃんとやってきてね!あ、筆跡も似せてよね!あなたこういうの好きでしょ?
はなちゃんが笑顔で言う。
あなた
で、でも、こういうのって、良くないんじゃ…
流石の私でも、これが良くないことだってことぐらい分かる。
クラスの子が自分で私の課題を写すのと、私がはなちゃんの課題をやることとでは、訳が違う。
はな
でも、私、明日明後日の土日、家族と旅行なんだよね〜。だから、あなたやってよ!どうせ家に籠ってるんでしょ?
はなちゃんの言うことは、間違ってない。
今日の課題は、土日に休みがあると言えど明らかに普段よりも多い。それに、きっと私は家に籠っている。
あなた
(課題を旅行中にするのは、誰だって嫌だよね)
あなた
分かりました。やってきます。
はな
良かった!
去り際、はなちゃんは私の肩に手を置いて私の耳に口を近づけた。
あなた
(シャンプーの甘い香りがする…)
はな
ハックさんには絶対言うなよ。言ったら○す
あなた
はなちゃんの急変に私は置いていかれそうになる。
はな
じゃあね!あなた!
はなちゃんは輝かしい笑顔で、サラサラの髪をなびかせながら去っていった。

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