……カナヲから貰った、お萩を取り出す。
捨てるのは……流石に申し訳ないので、一口だけでも食べようと思ったのだ。
久しぶりに見る、甘味。
……見ただけで。
思い出してしまう。
──あなた、一緒に萩食うかァ? …あ? んな事してないで鍛錬だァ?
…はっ、相変わらず真面目な野郎だなァ。
別にいいんだけどよォ。俺があなたの分も食っとくわァ。
──…なんだ、やっぱり食うんじゃねぇか。素直じゃねぇ奴だなァ、あなたは。
……ポタポタッ…
在りし日の記憶が蘇る。
お萩1つにも……大事な、大事な思い出が詰まってる。
師範は……本当に、笑顔が似合う人だった。
笑うと、凄く…優しい顔になるんだ。
師範が、血塗れでその場に倒れ込んだ時。
意味がわからなくなって……頭が、真っ白になって。
師範の身体は……どんどん…どんどん、冷たくなっていって…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
掠れた声で…小さな声で。
もう、話す余裕もあまり無いのだろう。
それを、理解すると……頭痛がした。
頭が、痛くて。
胸が……とても、苦しくて。
微笑みながら。
私の方に手を伸ばして。
……けれど、その手が…私に届くことは、なかった。
──その時にはもう、師範は……。
日が昇って。
怒りのままに……無惨を倒して。
炭治郎が、鬼に……なって。
でも、最後には……人間に戻った。
師範の元へ駆け寄る。
︎︎
︎︎
……私の心に、雨が降って。
視界が霞んで、何も見えない。
貴方が居ない限り。
この視界が晴れることは……絶対にないだろう。
貴方は、私の生きる意味。
──…私の、光だったんだ。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!