第8話

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2021/02/04 12:16
私を呼ぶ声なんて聞こえなかった。
とりあえず、頭を冷やしたかった。



「う...誰でもいいから、出て...!」



手当たり次第に電話をかけるより、適当に押し
た人でいいから話を聞いてもらいたかった。
でた声の相手は、



『もしもし...ここね?』


「うえ...今、から会える!?」


『い、今...?会える、けど』


「すぐ来て!」


『わかった。今どこ?』



そして大和さんと話したカフェへ。

そっと、窓際のカウンターの席へと腰掛ける。
外からは、街を行き交ういろいろな人たちが見える。

私を心配そうに除く、紫色の瞳。もとい壮五くん。


私は、隣に座る壮五くんにぽつぽつと出来事を話していく。



「...ふむ、倦怠期かと思ったけど」


「違うよばかぁ」


「はは、知ってる」



彼の好物は辛いものらしいけど、
辛いもの食べて育ったから、口から出る言葉も辛くなったんじゃないの?

なんて言ったら怒られちゃう。


でも、優しく背中を撫でてくれるあたり、私を元気づけてくれたんだろう。

そういうとこ、好きだなあ。



「昔からなんかネガティブスイッチが急に入るよね」


「うっ...気をつけてるんだけどね」


「もっと気をつけなさい。あ、カフェオレ二つください」



ポンと頭を撫でながら、店員さんにそういう。



「...どうするの?」


「謝ろうとは思うけど...三月くんと会うと、不安で胸がいっぱいで...」


「好きより?」






「好きより?」


「...んー、うん」



自信なくそう答えてしまう。
少なくとも、今は不安のほうが大きい。



「お待たせしました」


「「ありがとうございます」」



二人でそろって言うものだから、ふふっと笑ってしまった。

すると、ふいに壮五くんが口を開いた。


「...もう聞いちゃえば?」


「なんて?」


「私のこと好き?って」



うん、私の前だとそういうとこあるよねー。
なんかいきなり突飛なこと言うよねー。
絶対そんなこと言えないよ!重いって思われちゃうよ!



「え...いや、あはは」


「三月さん、ここねのこと大好きだから安心していいと思うな」


「...自信ないよ」



ちょっと心臓が跳ねたのは内緒。
私を励ましてくれているであろう言葉なんだから、期待なんてできない。
ってわかってるけど、嬉しいなあ。



「大丈夫、ここねはもっと自信持って?」



ちゅ、と軽くおでこにキスされる。
これは元気のでるおまじないみたいなもの。
傍から見たらよく勘違いされるけど、私たちにとっては普通のこと。

壮五くんは、可愛く笑った。



「おまじない」


「...ありがと」


「ふふ。じゃあ、三月さんのところにいって、ごめんって言って」


「うん」


「私のこと好き?って聞いてきてね」


「うん。ってえ」



私が振り向くと、真っ青な三月くんの顔。
...私は忘れきっていた。ここの席は窓側の席で、カウンターなので外からは丸見えなことを。






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