夢中で弾いていると
あっという間に
一曲弾き終えてしまった。
弾いている最中、まふ君は
何も言わずに私の音を聴いていた。
弾き終えても、
まふ君は固まったように動かない。
そんなに下手だったかな…?
まふ君から返ってきたのは
予想の真逆、褒め言葉だった。
目をキラキラさせて褒めてくれるまふ君。
…よかった。
下手すぎて入ってほしくない!
とか言われたらどうしようかと思った。
少しテンション高めなまふ君に
キーボードの機能を説明された。
覚えることが多くて大変だな…。
一通り説明を終えると
まふ君が皆を呼びに行った。
すぐにまふ君が皆を連れて
楽器室に戻ってきた。
私に前のめりで話しかけてきた
坂田君を手で制してツッコむセンラ君。
さっきまでの楽しさを思い出して
坂田君とセンラ君に向かって微笑む。
うらた先輩が指差したのは楽器室の奥。
少し埃を被ったドラムが置いてあった。
私が運ぼうとした時、
坂田君と志麻先輩が手伝ってくれた。
そらる先輩からバチを受け取る。
奥から出して埃を払ってみると
割と綺麗なドラムだった。
少しネジを調節し、椅子に座る。
皆に見られながら叩くの
恥ずかしいな…。
少しためらいながらバチを構えて叩いてみる。
さっきキーボードで弾いた曲と
同じ人が作ったボカロ曲。
ドラムで叩いたら
楽しいだろうなぁ…と思っていた。
曲に合わせて思いつきで叩いた。
ドラムもやっぱり懐かしく、楽しかった。
正式な楽譜ではないし、
技術の衰えもあってか
リズムが何度か乱れたけど。
一番を終えて、手を止めた。
皆の方を見る。
目を輝かせて
声を上げたのはうらた先輩。
いつもより明るい声色で
そらる先輩も褒めてくれた。
その後も皆にたくさん褒められた。
とても恥ずかしかったが、
とても嬉しかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!