前を見ずにつま先立ちで
練習室のドアの小窓を除いていたので
前に人が現れたことに気がつかなかった。
自分より大きな背中にぶつかってしまう。
私がぶつかったのは
練習室から出てきたそらる先輩だった。
そらる先輩に言われた通りに
自分の練習室に戻る。
そらる先輩はすぐにやってきた。
そらる先輩から2曲分のデモをもらう。
そらる先輩と2人でデモを聴く。
どちらの曲もアップテンポな曲だった。
2曲ともまふ君の作詞作編曲、
アイフェイクミーはそらる先輩も作詞作曲。
2人らしさがでている曲だと思った。
そらる先輩がついてくれるらしい。
先輩は1度2曲とも
披露したことがあるらしく
細かい部分まで教えてくれた。
そらる先輩の教え方が上手なのか
楽器片付けの目安時間まで
15分残してあらかたできるようになった。
あとは1人で練習しても問題ないだろう。
そらる先輩が少し私の方に向き直る。
先輩とは昼休みにまふ君と3人で
お昼ご飯を食べる時に話すくらいだ。
改まって、2人だけで話したことはない。
いつもまふ君が一緒にいた。
どんな話題がいいんだろう…。
私が考えていたら
そらる先輩が自分の
スマホの画面を見せてきた。
画面に表示されていたのは
先週末発売されたばかりの新作ゲーム。
人気のシリーズものの最新作だ。
私はそのゲームを知っていた。
歴代のシリーズは大体クリアしていて
最新作もチェック済みだった。
そらる先輩は私の返事を聞いて
急に明るくなる。
そらる先輩が今まで見たことのないくらいの
テンションの高さ、スピードで話し出した。
凄くキラキラした目で
楽しそうに話すそらる先輩は
なんだかいつもの先輩とは違って
少し幼く、少年らしく見えた。
そらる先輩はひとしきり話し終えて
前のめりの姿勢を元に戻す。
2人同時に時計に目をやる。
楽器を片付ける時間が近づいていた。
私が微笑むとなぜか先輩は目元を赤らめた。
そらる先輩とまた
ゲームの話をしながら
楽器を片付けて部室に戻った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。