第27話
朱 俺のノート。
あなたはすぐに病院に運ばれて手術をした。
手術は成功した。
命に別状はない。
しばらくは絶対安静の入院。
そう聞いても俺は
罪悪感と後悔でいっぱいだった。
俺の親とあなたの両親が話をしていた。
俺は何度もあなたの両親に謝った。
あなた母「天月君、そんなに謝らなくていいのよ。」
あなた父「天月君が悪い訳じゃないんだから。」
自分の親とあなたの両親になだめられても
俺はずっと泣きながら謝り続けた。
あなた…ごめん……‼︎
数時間後あなたが目を覚ました。
俺はすぐあなたにかけよった。
一生懸命謝ろうとしたら
俺を驚いた目で見つめるあなた。
俺のことが、分からないみたいだった。
あなたは記憶喪失になっていた。
家族や生活のことは覚えていても
学校での思い出、友達、
俺のことは忘れてしまった…。
俺は親に連れられて家に帰った。
もう隣にあなたの家はない。
もうあなたとは会えない。
あなたが何を言いかけたかは分からない。
俺の気持ちはあなたに伝えられない。
…あなたは俺を覚えていないから。
俺がもっと周りを見ていれば。
俺が早くバイクに気づいて
すぐ避けられていれば。
俺の心は後悔で埋め尽くされていた。
でもあなたはもう俺を覚えてないから
会えなくていいんだよな…。
いつしか俺はそう自分に言い聞かせていた。
もうあなたには会えない。
そう思ってたのに。
あなたはまた俺の前に現れた。
まふ君は時々質問をしたりしたけど
基本、俺の話を黙って
真剣に聞いてくれた。
流石のまふ君でも引いたよな。
俺、最低だし。
まふ君はしばらく黙っていた。
俺もしばらく窓の外を見ていた。
まふ君、優しいな…。
まふ君の言う通りだ。
会ってしまった以上
あなたが軽音部に入る以上
接触は避けられない。
なら、もう一度友達になるしかない。
俺を覚えていないあなたと
友達になるんだ。
そしていつか、気持ちを伝える。
まふ君と別れ練習室に戻った。
ギターを手に取ろうとした時。
聴き覚えのあるメロディーが
流れ出した。
誰かが演奏してる…?
でも、この曲を知ってるのは…。
聴こえてくる方は足を進める。
ここだ。
俺が立ち止まったドアの奥で
楽しそうにキーボードを弾いていたのは
あなただった。
…どう、して。
この曲は俺とあなたが思いつきで
適当なメロディーを鼻歌で歌っていた曲。
そういえばあなたが
ピアノが弾けるようになってすぐ
この曲を弾いていたっけ。
技術が上がったのか伴奏も付き、
ちゃんとした曲になっていた。
ずっと歌っていたから染み付いていたのかな。
気がつくと俺は泣いていた。
なんでだろう。
慌てて自分の練習室に戻る。
戻ってからも涙が止まらなかった。