第13話

透明な私は色を喰わぬまま
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2022/04/24 11:00
何をしたいのか。
私は何になりたいのか。

…………分からない。

小さい頃は、「大きくなったらケーキ屋さんになりたい!」だの「モデルになってみたい!」だの、女の子らしい夢は底を尽きない程にあった。

女の子なら1度は通るような、幼稚園とか小学校低学年くらいの時の将来への憧れ。

あれから数年経った今、私は高校生になった。

「梓咲、そろそろ将来のこと考えなさいね。」

医者である親から言われるその言葉は酷く冷たかった。
こんな私に期待、されてるみたいで。

私は全然優等生なんかじゃないし、テストも平均くらいだし、
医学系の進路なんて到底考えられない。

────思ったよりも自分が出来ないから、怖い。


手の届くところにあったはずの何かも、遥か遠くに離れていってしまったような、変な感じがする。

いつからだっけ、私はどうやって生きていきたいんだっけ。
何故か溢れて止まらなかったはずの“夢”がいつの間にか消えていた。

今の私には何が出来るのか、
どうしたらそれなりに楽しく生きていけるのか。
そんなことばかり考えてしまう。

昔みたいに夢を簡単に誰かに話すことも出来なくなった。


周りの友達の進路が決まっていく中、
私は1人、取り残されていることにとにかく焦っていた。

高校3年生の初夏、とりあえず勉強して。
でも明らかな目標の無い私は、なんだかふわふわしているようで成績は思ったよりも伸びなくて。

そんな自分にまた、焦っていて。


溜め息を零さぬように唇を噛みながら、しん…とした何処か寂しげな通学路を歩く。
この通学路もあと数ヶ月したら、きっと、たぶん来なくなるんだろうな…。

高校生活、思えばあっという間だったな。
物足りないような、満足したような、青春とも言い難い75%くらいの3年間……いや、まだ2年半だったか。

だからって時を戻せ、とは言わないけど。

1×60×60×24×365秒=1年間で、
月は欠けて満ちて、消えて、n回繰り返して、
太陽の周りを地球が回って、その周りで惑星がぐるぐると巡り煌めいて、『日々』が成り立って。
そんな価値を成しているこの世に生まれた限り、私は浅い呼吸を続けながら。


私は何になりたいんだろう。何をしたいんだろう。
何に全力を捧げたいのかな。
何に命を懸けて生きていきたいのかな。


結局、いつも振り出しに戻る終い。

突如、隣で夏風に揺られている幼稚園の敷地の短冊が目に入る。

そういえば、もうすぐ七夕だっけな。


焦点を短冊に合わせてゆっくりとまばたきをすると、
そこには無邪気に笑う小さい頃の私が揺れていた。

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