夕方、町に鳴り響く17時を告げる音。
少し切ない…、だけど田舎であるこの町から近い山に、
反響する様な凛とした音。
「芽吹~、一緒に帰ろ!」
『あー、うん。』
帆波は部活は入っていないけれど、
生徒会に所属にしているので帰りが大体、
私と同じくらいの時間になる。
ちなみに私は美術部だ。
特に大きなコンクールも年に2回しか無く、全体的に緩いこの部活は同級生…私を含めて5人だけが所属している小さな廃部寸前レベルの部活だ。
そんなこの部活に今日は珍しく、
入部した1人の女の子がいた。
『えーっと、よろしく。鏡未ちゃん。』
1つ下の学年の控え目な女の子だった。
「よろしくお願いします。」
どうも堅苦しい空気を拭いきれていない、
その子に私は何故か親近感を覚えた。
さらさらな黒髪を1つに結って、ぱっちりとした大きな目。
加えて長い睫毛は小さい頃遊んでいた着せ替え人形の様だった。
何というか………、この町の雰囲気に浮いているというか。
東京とかにいたらスカウトとかされそうな、
綺麗な顔立ちをしている。
更に、想像以上に鏡未ちゃんの絵は上手かった。
絵に上手いも何も無いのは分かってるけど、
思わず口から出るのはやっぱり『凄く上手。』だった。
私たち、先輩の内心どうでもいい話を丁寧に相槌を打ってにこにこと笑って聞いてくれる。
非の打ち所が無い、というのはこういう事だと私は思った。
絶対、鏡未ちゃんの事好きな男の子居るだろうな~とか思ってしまう私は少女漫画の読みすぎだろうか。
16:45の部活終了のチャイムが校内に響いて、
いつも通り帆波が待っているであろう校門に私は向かう。
がらり…と、錆びた部室のドアを『お疲れ様~』と言いながら開くと薄暗い廊下に鏡未ちゃんと同じ学年色の上履きを履いた少年が立っていた。
それに気付いた様で、
私の横を鏡未ちゃんがお辞儀しながら通った。
「あ、和弥。待っててくれたの?」
「あー、今来たところ。」
私は微笑ましくなって、
手を振りながら2人に背を向けて歩いていく。
きっと和弥くんは鏡未ちゃんの事、
好きなんだろうな~とか思う。
普通の友達なら「今来たところ。」なんて、
気遣って言わないから。
現に私は30分前に廊下の展示物の掃除をしていた時に、
和弥くんの姿を見ている。
昇降口の窓に映るのは新緑の葉が弱い風に吹かれて、
白い星が後ろで瞬いている────、
初夏の17:00、夕焼け空が切り取られた絵みたいな切なくて暖かい風景だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。