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第19話

椎名side 好きになるわけない
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2022/01/04 04:51

あの日以来、俺は何かと先輩のことを耳にするようになった。

多分、俺が意識していたから耳に入ってきただけだと思うけど…。




”大倉ゆな”

それが先輩の名前だった。

元気で明るく、たまに廊下ですれ違う時も、いつも笑顔でとても楽しそうだった。

俺は感情を表に出すのが苦手だから、こんなにも明るく感情を表に出す人を見てると羨ましいと思った。

遠くから見てるだけだったが、知れば知るほど先輩の魅力に気づいていく自分がいた。





何故か、あの嵐のように一瞬の出来事から先輩のことが脳裏に焼き付いて、忘れられなかった。



ぶつかった直後のきょとんとした顔。

我に返り、慌てた時の顔。

俺に謝る隙すら与えず、何度も何度も謝ってきた時の顔。

そして最後に見せたあの笑顔…。



何でだろう。

何で意識してしまうんだろう。

あんなこと普通にあることなのに…。




こんなことは初めてだった。





気づけば6月。

俺は教室から窓の外を眺めていた。


「ふっ…笑」


思わず笑みが溢れる。


先輩が、いたのだ。

先輩は移動教室なのか、渡り廊下を友達とはしゃぎながら歩いていた。

ところが、話に夢中になりすぎて前が見えていなかったのか、教頭に思いきりぶつかってしまった。

慌ててペコペコと必死に頭を下げている。

そんな先輩を見てると面白いし、見てて飽きない。



「春樹?聞いてんのかー?」


友人である優斗のそんな声に、ハッと我にかえる。


「あぁ、聞いてるよ。」


「嘘だ。何見てたんだよ。」


そう言い、優斗は窓の外に目を向けた。

やばい、先輩のこと見てたのがバレる。

優斗とはいつも一緒にいるから、もう薄々気づかれているかも知れないけど。


「はぁ…また先輩かよ。」


は…?

”また”って何だ?

やっぱりもう気づかれてたってことかよ。

驚いている俺の表情を見て、優斗は呆れた口調で続けた。


「まさか気づかれてないとでも思った?」


やっぱり、気づいてたのか。


「お前が大倉先輩を好きってことくらい、もうとっくに知ってるわ。」


「え?!」


何言ってんだこいつ。

俺が、先輩のこと…好き?


「まさか自覚ねぇのかよ?!」


優斗は驚いて目を見開く。

自覚も何も…。

俺が先輩を見ているのは、ドジな行動が見てて面白いからだし。

きっと、意識してしまうのも、面白いものを見たい、という野次馬根性が働いているだけだ。

決して先輩のことを好きだから見てるわけではない。

うんうん、と1人で納得していると、それを見た優斗が俺に向かってキッパリと言った。


「お前は、大倉先輩のことが好きなの。いい加減認めろ。」


「いやいや、認めるも何も。まず好きじゃねーし。」


「一生そう言ってろ。」


まじで何言ってんだよ。

認めろ???何を?

俺が先輩を好きとかありえねぇんだけど。

こんなドジでバカな先輩のことを好きになるわけないだろ。

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