そして、文化祭当日。
あちらこちらで生徒たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
「ゆなー!みてみてー!」
声をかけられ横を見やると、美奈がクレープ屋の宣伝のための着ぐるみを着てはしゃいでいた。
美奈だけではなく、今日は学校全体が賑やかである。
色とりどりの看板や飾りが飾られ、普段と違った学校に少しワクワクする。
「うわぁ、いいじゃーん!」
私はそう言いながら微笑んだ。
すると美奈は私の目をじーっと見つめ、いきなり黙り込んでしまった。
そして、心配そうな顔をしながら尋ねてくる。
「ゆな、もしかして元気ない?」
え、
…なんで分かったんだろう。
そんな顔に出てたかな?
私の心の奥に残っている暗い気持ちは、楽しい文化祭でも隠し切れないのだろうか。
それとも親友の美奈だからこそ、見破ったのだろうか。
美奈はしばらく怪訝そうにしていたが、私が元気のない理由がわかったのか優しい声色で言った。
「…椎名くんのことは忘れて今日は思い切り楽しもう?」
「あ、う、うん…!」
私は、美奈の優しい言葉に少し泣きそうになりながら頷いた。
文化祭だというのに私の気分が晴れないのは、美奈が今言った通り椎名くんが原因である。
実は、ずっと椎名くんと話せていない。
なぜなら、椎名くんがあからさまに私を避けるようになったからだ。
作戦期間が終わった日、私はすぐさま椎名くんに話しかけに行った。
美奈や空に励ましてもらいながら、何とか2週間乗り切ったのだ。
ずっとずっと話したくてしょうがなかった。
何を話そう?
椎名くんはどんな反応をする?
少しは私のこと考えてくれてたのかな?
私のこと忘れちゃったりしてないかな?
作戦は効いている…?
聞きたいこと、話したいこと、気になること、たくさんあった。
でも、椎名くんは私の姿を見るなり逃げるように去っていった。
次の日も、その次の日も、私は椎名くんと話そうと試みたが、だめだった。
”避けられている”
そう気付いたときのショックはとても大きかった。
こんなことになるくらいなら、作戦なんて実行しなければよかった。
椎名くんと話せなくなるくらいなら、無理して好きになってもらう必要なんてなかった。
話せなくなるなら、避けられるなら、前のままの方がマシだったのに…。
後悔してもしきれなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!