「しい…」
クレープを渡し終え、勇気を振り絞って椎名くんに話しかけようとしたときだった。
「春樹〜!クレープ買えた?」
透き通るような綺麗な声が、私の言葉を遮った。
長い髪、色白の頬、大きな瞳に小さな唇を持ち合わせていたその子は、誰もがはっと目を引くような美人だった。
その子は椎名くんの腕に自分の腕を絡め、上目遣いで椎名くんを見つめている。
こんな美人にそんなことされたら、私でも惚れてしまいそうだ。
「やめろよ。買えたから放せ。」
椎名くんは不愉快そうに腕を振り払っていたが、とても心を許しているように見えた。
椎名くんのこと名前で呼んでるし、2人の仲は親密なんだろう。
さっきまで浮き立っていた心がすっかり沈み込む。
「次のお客さんが待っているので、早く退場していただけるとありがたいです。」
私の声なのかと疑うくらい、冷たい声が出た。
本当は次のお客さんなんて待ってないのに。
でも私の前から早くいなくなってほしかった。
もう買い終わったんだから早く行ってよ…。
目の前で腕組んでるところなんて見せつけないでよ…。
「………」
椎名くんは何か言いたそうにこちらを見つめていたが、その美人の女の子に腕を引かれて行ってしまった。
きっと、彼女だろう。
ずっと避けられていたのも、彼女ができたからだろう。
私がやってきたことは何だったんだろう。
作戦とか立てて、苦しい思いして我慢して、その後に避けられて、彼女とのイチャイチャを目の前で見せられて…。
ほんと、私って馬鹿だ。
椎名くんの言ってた通り、馬鹿だよ、私。
すごくすごく悲しかったはずなのに、何故か涙は出なかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。