第17話

文化祭⑥
70
2021/12/28 01:02
「しい…」


クレープを渡し終え、勇気を振り絞って椎名くんに話しかけようとしたときだった。



「春樹〜!クレープ買えた?」


透き通るような綺麗な声が、私の言葉を遮った。

長い髪、色白の頬、大きな瞳に小さな唇を持ち合わせていたその子は、誰もがはっと目を引くような美人だった。

その子は椎名くんの腕に自分の腕を絡め、上目遣いで椎名くんを見つめている。

こんな美人にそんなことされたら、私でも惚れてしまいそうだ。


「やめろよ。買えたから放せ。」


椎名くんは不愉快そうに腕を振り払っていたが、とても心を許しているように見えた。

椎名くんのこと名前で呼んでるし、2人の仲は親密なんだろう。

さっきまで浮き立っていた心がすっかり沈み込む。


「次のお客さんが待っているので、早く退場していただけるとありがたいです。」


私の声なのかと疑うくらい、冷たい声が出た。

本当は次のお客さんなんて待ってないのに。

でも私の前から早くいなくなってほしかった。


もう買い終わったんだから早く行ってよ…。

目の前で腕組んでるところなんて見せつけないでよ…。


「………」


椎名くんは何か言いたそうにこちらを見つめていたが、その美人の女の子に腕を引かれて行ってしまった。



きっと、彼女だろう。

ずっと避けられていたのも、彼女ができたからだろう。


私がやってきたことは何だったんだろう。

作戦とか立てて、苦しい思いして我慢して、その後に避けられて、彼女とのイチャイチャを目の前で見せられて…。


ほんと、私って馬鹿だ。

椎名くんの言ってた通り、馬鹿だよ、私。






すごくすごく悲しかったはずなのに、何故か涙は出なかった。




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