"今日は飲み会だから遅くなる。"
"先に寝てていいよ"
彼の元にそうメールが来てからもう3時間がたった
現在時刻は夜中の0時。
もちろん寝るはずもなく、神山智洋は一人薄暗い部屋で待っていた。
ぼそぼそと独り言を呟き、左手の薬指を見つめる。
6ヶ月前から当たり前になったこの関係。
愛しくてたまらない彼女を一時も離したくない。
しかし、そうさせることで最愛の彼女を傷つけてしまうかもしれない。
2つの気持ちの狭間で揺れて、
何とか"素敵な旦那"を演じることが出来ている。
本当は彼女を狂わせたい。
自分だけのものにして、
愛して、愛されて、永遠に隣で求めてたい。
でも、そんな理想を現実にしないのは、
過去に傷があるから。
退屈な時間をバカにするように、
智洋はキングサイズのベッドに横になる。
いつも隣にある温もりがないと眠ることもできないから、ただひたすらに彼女を待ち続けた。
やがてゆっくりドアを開ける音が聞こえた。
ここで走って出迎えたい気持ちを抑え、何事も無かったかのように振る舞う。
いつも通りでいたのに、今日は駄目みたいだ。
他のやつの香水の匂い。
まるで智洋を狂わせるためにわざと匂わせているかのように。
そんな匂いを直ぐにけいてしまいたくて、
抱きつくフリをして智洋の匂いを擦り付ける。
消したい
けしたい
ケシタイ
ここで本音を言ってしまったら、
もう止められなくなる。
そう言って強く抱きしめた。
こくんと頷くと、智洋の視界に入る鎖骨のアザ
もう、抑えられない
彼女をベッドに押し倒し、
誰かがつけた印の上書きをしてあげる。
いつもと違う智洋にあなたは動揺した。
今までこんなこと全くと言っていいほどなかったのだから、驚くのも無理はない。
ベッドに押し倒したままそう問う智洋の瞳は潤んでいた。
智洋を安心させようと言葉を述べるけれど、
残念ながらあなたには心当たりがあった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!