第35話

恋花火 濵田崇裕
1,670
2018/12/17 09:05
あなた

...やっぱりダメだよ

濱田崇裕
濱田崇裕
アホ、はよ行くで
今日は近くで規模はちょっと小さいけど毎年花火大会が行われる。

それを知った昨日、思わずたかくんの前で行きたいと言ってしまった
そしたら彼はノリノリで
今だって黙々と私の下駄の鼻緒を広げてくれていて、この前テレビで見てた番組の知識を早速活用してる
いいよって言われた時は何も考えずに喜んでたけど、よく考えたら、ダメだよね...
たかくんはアイドルだもん...
いつどこで誰が気づくかわからない
濱田崇裕
濱田崇裕
誰も俺らのことなんか見てへんって!
あなた

でも、

濱田崇裕
濱田崇裕
もう、ええから!
渋る私の腕を引いて、半ば強制的に玄関から連れ出される
夏のぬるい空気が体にまとわりついた
濱田崇裕
濱田崇裕
あー、あっつ、脱ぎたい!
なんで浴衣着たんやろ、俺...
たかくんは暑さに顔をしかめて襟元に手を入れてぐっと広げた

...あ、だめ、かっこいい///
濱田崇裕
濱田崇裕
なに見てんねん
あなた

あ、ごめっ

濱田崇裕
濱田崇裕
あなたのえっち〜
あなた

なっ、ばか!ちがう!

おどけたように言ったたかくんの言葉が恥ずかしくて、叫ぶように否定した
濱田崇裕
濱田崇裕
じゃあいつも"もっと"って俺の下で泣いてるん誰?
ニヤニヤした顔で言うたかくん
あなた

し、しらないっ///

濱田崇裕
濱田崇裕
...お前やろ?
あなた

っ、///

濱田崇裕
濱田崇裕
よーし、そろそろ行くでー!
たかくんはいじわるだ。

会場が近づくにつれて、人が多くなってきた
屋台が出ていることもあって、それを目当てに来ている高校生の集団もいる。

...気をつけないと

一段と気が引き締まって緊張してる私の隣で、たかくんは呑気にはしゃいでる
濱田崇裕
濱田崇裕
あなた、なに食べる?
...普通は逆だよ、たかくん
濱田崇裕
濱田崇裕
金魚すくいやる?
あなた

たかくん、もうちょっと周り気にして?

たかくんはマスクもメガネもしてない。
浴衣だって、さっき襟を引っ張ったから着崩されてるし、すごいはしゃいでるから明らかに目立ってる

...こんなの自分が濵田崇裕ですって言ってるようなものだよ
濱田崇裕
濱田崇裕
記者警戒してるん?
あなた

...たかくんのファンを私のせいで傷つけたくないの

ファンの子はお金を払ってたかくんに会いに行ってるのに、会えるのは年に数回で、人によっては会えない場合だってある

でも私はたかくんに、お金を払わなくても何回も何時間も会える。
それどころか私たちの関係は恋人で、触れることだって簡単にできる。
ただでさえファンの子に申し訳ないのに、それが明るみになったらきっとみんな傷つく。
それとなにより、アイドルという仕事に一生懸命なたかくんの、イメージダウンに繋がってしまうのが怖い。
濱田崇裕
濱田崇裕
ま、あなたらしい理由やけど。
あなた

じゃ、じゃあっ

濱田崇裕
濱田崇裕
でも俺、気づかれない自信あるで。
今日のたかくんは何を言ってもダメみたい。
屋台が並ぶ一本道を歩く背中を追いかけながら思った
あなた

ちょっ、待ってたかくん、歩くのはやいっ、

濱田崇裕
濱田崇裕
.........。
たかくんは不機嫌になるタイミングがずれてる

...しつこく周り気にする私に呆れちゃったのかな

歩きながらぐるぐる考えてると、
あなた

...あれ、?

少し前を歩いてたはずのたかくんがいない。
はぐれちゃったかもしれない...。
あなた

どうしよう...

事の重大さに気づいて泣きそうなる。
男1)ねぇ、君1人?
あなた

え...?

馴れ馴れしく話かけられて顔を上げると、
髪の色が奇抜な3人組だった
男2)可愛い顔してんじゃん!

男3)俺らと遊ばね?
あなた

あ、えっと...

突然の事で頭の中が真っ白になって、肝心なところで言葉が出てこない。
それをいいことに男の1人が腕を掴み、人気のない外れの道へ
あなた

ちょっと...

頭の中が混乱してよく分からないけど、このままじゃきっと、いや、絶対まずい
そう思って掴まれた腕を振りほどこうとしたけど、相手は3人、ましてや男なわけで
男1)なになにその反抗的な態度
あなた

っ...!

掴む手に力を入れられ、空いた左手で頬を撫でられる

...やだっ、気持ち悪い、触らないでっ
男1)逃げない自分が悪いんじゃん?

男2)ちょっと俺らに付き合ってもらうね〜
...たすけてっ

そう思っても、ドラマみたいに救世主はやってこない。
周りは賑やかでたとえ声を出しても誰にも届かないまま消えてしまう。
あなた

いやっ、

浴衣に手をかけられ、胸元が妙に涼しくなるけど、私は抵抗すらできない。
男2)すぐ終わるんだからさぁ
黙って大人しくしとけよ
気づけば男の一人がカメラを向けていて、もう1人がやらしく舌なめずりをして近づいてきた

...嫌だ、嫌だ、怖いっ、
あなた

っ、たすけて、たかくん...っ

濱田崇裕
濱田崇裕
ん?呼んだ?
声がした瞬間、暗闇に真っ白い光が差した様な気がした。
男3)はぁ?お前誰だよ!
濱田崇裕
濱田崇裕
いやいやいや、俺のセリフやから
薄く笑いながら答える私だけの救世主
濱田崇裕
濱田崇裕
悪いんやけど、それ俺のやから
あなた

たかくっ、

濱田崇裕
濱田崇裕
これ以上触れたらほんまに許さへんから
たかくんが低い声で言い放つ
男1)っ、んだよ、行こうぜ
ひとつ舌打ちをして、彼らは夜に溶けていった。
あの3人がいなくなると、私の視界にはたかくんだけ。
安心したら全身の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
あなた

こわかった、っ...

3人が去っていった方向を睨んでいたたかくんは、くるりと私の方を向いて何も言わず抱きしめる。
濱田崇裕
濱田崇裕
ごめん、遅なって
ちゃんと手繋いどけばよかったな
1日くらいは普通の恋人としていたかったんよ。
勝手に不機嫌になってごめんな。
...そっか、そういうことだったんだ
たかくんは普通の恋人になりたかったんだ
あんなに"アイドル"を押し付けたら嫌になるよね
あなた

たかくん、ごめんね、ありがとう!

濱田崇裕
濱田崇裕
...はよ行くで!
花火始まってまうから!
たかくんの顔が赤く見えたのは、
道にそって並んでる屋台の明かりのせいかな...

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