諦める為に必要な、儀式だった。
僕を勢いよく突き飛ばし、涙で潤む瞳で睨みつけ。
走り去って行くその背中に手を伸ばしたけれど。
行き場を無くした手が、力なく落ちる。
例えるなら彼女は、永遠に手が届く事のない1番星。
自分勝手な欲望は粉々に打ち砕いて、土に返した方が良い。
ずっと、ずっと、ずっと。
恋心を抱き始めたあの日から、彼女が見ているのが
自分ではなく兄だと分かったあの日から、ずっと。
自分に言い聞かせて来たのに。
ただ、好きなのだ。どうしようもない程。
多分、この想いは死ぬまで続く。
もし彼女が先に死んだとしても、続いてしまう。
それならば、いっそ、軽蔑されれば良い。
明るく振り返らない主義だと言った雅の事だから、
流星群のように、目の前から消えるだろう。
音すら立てず、瞬きするより早く。
まるで、初めから自分の隣にいなかったみたいに。
想いは空回り、追いかけて謝る事も、もう出来ない。
きっと彼女はもう、僕の声はおろか。
顔すら見たくないだろうから。
__僕が突然こんな行動を起こしたのには訳がある。
いつまで経っても彼女の1番を譲ろうとしない
兄貴に腹が立って、悔しくて。
無理矢理にでも奪おうとした事は否定出来ない。
誰よりも雅を愛し、愛されたい。
誰よりも沢山、雅の表情を見たい。
例え彼女もまた、叶わない恋をしていて。
僕の事を見る事なんて、
絶対に無いと分かっていても。
追いかけて、叫ぶ。
ずっと変わらない想いを。
やっぱり諦められないと言う声を。
ゆっくりと立ち止まり...振り返る彼女と目が合って。
すぐに伏せられたその眼差しから、
この恋は本当に叶う事が無いのだと悟って。
また逃げるように走って行った彼女を、
滲む視界の中で、見送る。
今度はもう、しばらく。その場から動けなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!