クラスメイトの姿が見えなくなった途端。
私の笑顔は一瞬のうちに消えた。
これで、良かったのだろうか。
鞄を持ち、そんな事を呟きながら学校を出ると。
聞き慣れた声が、私の名前を呼んで。
弾かれたように顔を上げる。
校門の傍の壁に寄りかかってこちらを見つめる
ころちゃんは悔しいけど絵になっていて。
ほんの少しだけ、格好良いと思った。
気まずさと安堵の中、普段通りを演じて。
先に歩き出そうとした私の腕を、ころちゃんが掴む。
いつもの声では無い、静かな声音。
驚きはしたものの、やっぱり隠せないかという思いも
どこかにあった。
重い空気を変えるべく、小さく笑いながら言っても
彼の表情は厳しいままで。
やがてこんな事を聞かれた。
今度こそ本当にびっくりした。
さすが幼馴染というべきか。
いとも簡単に私から本当の事を抜き出して、
彼は寂しそうな瞳を私に向ける。
その瞳を見るのか怖くて、俯いたまま謝罪した。
昔は何だって言いあえて。
隠し事なんて、1つも無かったのに。
大きくなって、男女の境界線がはっきりすれば、する程。
私達の距離は、開いていく。
どんなに必死に手を伸ばしても、近づこうとしても。
一度空いてしまった距離は、絶対に埋まる事は無い。
心の裏側には、踏み入れさせてくれない。
だから私も最後は諦めて、自分に笑顔を貼り付ける。
きっと彼も本当は気づいているのだろう。
私達の関係に、"偽り"が混じっている事に。
けれど彼の振る舞いがそれを隠し通す事を望んでいるから。
表面上はそれに従って。
心の中で1人、届く事のない彼の本心に、彼自身に。
今日も、手を伸ばし続ける。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!