雅が自宅に入って行くのを見送り、自分も家に入った途端。
玄関ドアにもたれかかり、うなだれる。
いつも上手くいかなかった日に行う、反省会のような物だ。
取られてしまってからでは遅い。
手が届かない場所に行かれたら困るから。
焦りにも似た感情が頭の中をグルグルと回る。
そこで気づいた。大事な事に。
そもそも好きな奴がいたら、結果は分かりきっている。
関係だけが壊れて、振られるのは明白だ。
その様子が想像出来てしまって、更に落ち込む。
どのくらいの時間、反省会をしていたのだろうか。
ピンポーン♬︎
俺の心とは正反対の、軽快なチャイムが家の中に鳴り響く。
モニターを覗くのも面倒で、そのまま開けると。
ルームウェア姿の雅がタッパーを持って立っていて。
しばし、呆然としてから。
と、小さめの声で呟く。
すると彼女は楽しげに笑いながら言った。
普通の男なら、簡単に勘違いするようなセリフを。
この無自覚天然は、本当に良くないと思う。
僕は昔から一緒にいて、こういう言葉に
何の含みも無い事を理解しているけれど。
雅はいつだって自覚無しに、僕の事を振り回す。
ずっと黙っていると、雅が不思議そうな声を上げて。
びっくりし過ぎた僕は、素っ頓狂な声を出してしまう。
堪えきれない、という雰囲気で笑う雅。
少し反撃してみる事にした。
ただでさえ大きな瞳を更に大きく見開いた雅は
疑い深そうに僕を見つめる。
疑いの視線から逃れようと、目を逸らすけど。
彼女は追求の手を緩めない。
つい、喧嘩腰になってしまって。
呆気なく、論破された。
くるり、と後ろを向いて歩き出してしまった
彼女の肩を引き寄せて、囁いた。
ココアという単語にピクリ、と彼女が反応する。
だんだん大人しくなっていく雅。
ココアに完全に釣られている。
内心ガッツポーズをしながらトドメを刺す。
マシュマロ、ココア。この2つが揃えば、
彼女は確実に来る。その読みが当たった結果だ。
さすがにそこまでの勇気は無いな、と
前を歩く彼女を見つめながら、思った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。