僕が帰るのを疑っている事は薄々分かっていたし、
後ろから確認しに来ている事にも気づいていた。
それを分かった上で、あえて校門を出て。
死角になる所で足を止めたのだ。
彼女の姿が昇降口から無くなっているのを確認して、
こっそり校内へと戻る。
帰る前の会話の中で手に入れた情報を
思い出しながら、足音を殺して近づいて行く。
寒々しく見える空き教室の中に、彼女は1人。
近くの椅子に座って待ち人が来るのを待っていた。
ほんの少しだけ時間を空けて姿を見せた3人が、
空き教室に入って行く。
窓枠の傍に居たせいか、会話は丸聞こえで。
少し申し訳なく思いながらも、耳を澄ませる。
そして。3人の内の1人が、単刀直入に言うね。と
前置きして雅に尋ねた。
僕の事を、どう思っているのか、と。
案の定、雅はしばらくの間、目を見開いて固まって。
それから瞳に優しい色を宿しながら言った。
『幼馴染』として"好き"だと。
誰よりも近くにいるはずなのに。
1番届かない立場にいるんだと思い知らされるから。
その後の、人を安心させるような微笑みを見て、分かった。
どんなに彼女からの愛を望もうと、
手に入る日は来ないんだと。
だって疑いの目にすら。
純粋な笑顔で、声で。
僕の幸せを願う事を、やめなかったのだから。
ー予想外の事態になったのは、その後。
雅の答えに納得がいかなかったのか。
ついに最初から喋っていなかったあの子が
叫んだのだ。
ここに来て初めて。雅の瞳が動揺に揺れる。
しばらく唇を噛んで俯いた雅。_やがて。
小さくそう呟いて、教室から駆け出してしまう。
今すぐ追いかけたい衝動を必死に抑え込み、
自らの短絡性を憎んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。