ころちゃんが心から笑わなくなったのは。
多分、あの日から。
あまり覚えていない当時の記憶の中で、
兄さんが「恋論を頼んだ」と言っていた気がする。
いつも通りに見えて、どこかぎこちない。
そんな帰り道を歩いたばかりの私には荷が重かった。
兄さん、と呼んだこの人は、私の本当の兄では無い。
ころちゃんの5つ年上のお兄さんで、
とても優しくて格好良くて。いつも笑っていた、憧れの人。
仲良くしろ、と笑うか、
またくだらない事で喧嘩して、と呆れるかもしれない。
あの日から、9年が経った今も。
私は兄さんを忘れられずにいる。
私の命と人生の代償になって、助けてくれた人。
本当は、そんな兄さんの話を沢山沢山したいけど。
私達の関係を保つ為、口には出さない。
ーそれでも。
お互い何も言わなくても。
兄さんの優しさや、手を繋いでくれた時の温もり。
柔らかくて大好きだった、笑い声とか。
2人とも同じ気持ちだと、信じていたのに。
私がクラスの男の子と話したり、話しかけられたりすると。
机の上に置いてある写真立てを手に取り、
兄さんに向かって呟く。
教えてよ、と。
もちろん返事などあるはずもなくて。
ぎゅう、と写真立てを抱き締めて、きつく目をつぶる。
そんな私の祈りが神様に聞き入れられたのか。
翌朝、ころちゃんの顔は明るかった。
内心ホッとしながら、微笑み返す。
ーあぁ。神様。
もしも今日、願いを聞き入れないでくれていたら。
"あんな事"は起こらなくて。
こんな朝が二度と来ないような状況には、
しないで置いてくれましたか?
ー私達の関係が壊れるまで、あと1週間。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。