彼らの行く手を塞ぐように、目の前に立つころちゃん。
その瞳に、いつもの優しい輝きは無く。
ただひらすらに怒りがにじみ出ていて、ゾッとする。
私ですら気圧されてしまう雰囲気に、
彼らが怯えないはずもなく。
怒りを抑えた彼の完璧な営業スマイルに、
2人は更に震え上がった。
そんな必死のごまかしも、ころちゃんは通じない。
逃がさないよう、彼が更なる追い討ちをかけると。
先程までのしつこさが嘘のように、
呆気なく逃げて行った。
その様子をしばらく見ていたころちゃんは、
やがて乱暴に、小さく吐き捨てて。
くるり、と私の方を振り向いた。
怒られる事も覚悟で、恐る恐る返事をすると。
思ったよりも優しい声で謝られて。
そっと、頭を撫でられる。
同級生に頭を撫でられる事なんて無いから、
余計に恥ずかしい。
昔からやってるのに、と不思議そうに笑う彼は、
やっぱり天然なんだと思う。
...でも。私達だって。
もう、あの頃みたいに子供じゃ無いから。
いつまでも恋愛と無縁で居られる訳じゃないなんて、
分かってる。
現実から、現在から、目を背ける為に。
"幼馴染で同級生の女子"を演じ続ける。
彼に好きな人が出来る、その日まで。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。