唇が触れる寸前。
ふと気配が離れて、額に小さな痛み。
そっと目を開けると、
ニヤニヤと悪戯っ子ように笑う彼が居て。
デコピンされたのだと気付いた。
彼は純粋に見えて、そうでも無いらしい。
言われて居る側が恥ずかしくなるような事を、
平気な顔して言うんだから。
そして神様も、本当に空気が読めないらしい。
私の予想以上に早く、ころちゃんが帰って来てしまって。
間中くんが分かりやすく顔を歪めて嫌がる。
この間の長期戦を避ける為、早めに仲介に入った。
__が。それが彼には気に食わなかったらしい。
不貞腐れたジト目で私を見ながら、間中くんを指差す。
嫉妬してくれたのであれば、不謹慎だけど嬉しかった。
ころちゃんは私の中で、人に執着しないイメージだから。
言葉に詰まった彼を煽るように。
間中くんはノリノリで指を鳴らして。
それを止めようと指に触れかけた所で。
誰かの腕で拘束される。
腕の主を見上げると、もちろんそれは。
.....ころちゃんの物。
付き合ってから初めて覗かせてくれた独占欲が。
覗かせてくれた『好き』の感情が。
泣きそうな程に嬉しくて。
思わず、ころちゃんの胸に顔を埋める。
私の変化に、ころちゃんが照れ臭そうに身を捩って。
さすがの間中くんでも、
少し顔が引き攣ってしまって居る。
からかう気も起きないのか、
それとも気を遣ってくれたのかは分からないけれど。
いつの間にか私達しか居なくなった図書室で。
大好きな人の唇に。
そっと、触れて。
甘やかな温もりを、分け合った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!