第7話

2つの約束
214
2019/01/02 13:52
『黙ってついてこい。』

と言われたもんだから、黙ってリュウを追いかけて歩いた。


朝倉 沙耶
…あっ、あれ…
確か昨日の夜見かけたでっかい建物だ…。

変わらず湯気がたくさん出ている…。
朝倉 沙耶
あれが、赤居温泉?
リュウ
…そうだ
朝倉 沙耶
何を覚悟するの?
またリュウは、口を閉じる。
リュウ
はぁ、この湯屋の経営主…
リュウ
キョーナという人がいる。
朝倉 沙耶
うん……
リュウ
キョーナは、人間が大嫌いだ。
リュウ
鼻にも敏感、お前が人間だってバレる可能性も高い。
朝倉 沙耶
え!じゃあ…
リュウ
まだ話し中だ…
冷たい目で睨んでくるので口を閉じた。

この目、怖いからやめて。って言いたいほど怖い。
リュウ
人間がうちの温泉に浸かったってバレたらどうなると思う?
朝倉 沙耶
私は…間違いなく…
朝倉 沙耶
処分だよね?
リュウ
当たり前だ、その前に死ぬまでこき使われるかもな
ハッと笑い出すリュウに対し、青ざめる私…。
朝倉 沙耶
やめよう!帰ろうよ!
リュウ
馬鹿言え
「こんな湯屋に行くお前の方が馬鹿だ!!」

というのは心に閉まっておこう。
リュウ
いいか?お前は人間臭い
リュウ
今も、チラチラと見てる人もおるぞ
言われて周りを見ると…1人、2人…私を見ている…
朝倉 沙耶
に、臭う…?
リュウ
うん、臭う。それで赤居温泉に入ったらこの匂いはとれるっていうわけだ。
朝倉 沙耶
それなら行くしかないよね…
さっきの言葉は、取り消します…。
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《受付》
リュウ
女子1人、入る。
受付の人
はーい、お前さんは?
リュウ
俺は、いい
受付の人
では、チケットとバスタオルでーす。
と言いながら、はい。と手を出すちょっとひげを生えた猪みたいなおっさんの受付の人…。
リュウ
…ほれ
渡したのは…お金…なのかな?……小判だ…。

小判なんだ……小判なんだね……。


なんか思ってた不思議な物じゃなく…

シンプルに同じお金じゃなくて日本が昔使ってた小判…。

なんかどう反応すればいいのか分からずポカーンとしていた。
受付の人
ん?ちょっとお待ちな
この言葉にハッと我に返る。
受付の人
なんか臭わないか?リュウよ
え?名前で呼んだ?知り合い…?
リュウ
そうか?お前さんの屁の匂いじゃねえのか?
受付の人
はははっ!冗談は、よしな
ばっと笑顔が消えて真顔で《人間》という言葉を口にする。
受付の人
《人間》の匂いがするゾ?
リュウ
あぁ、こいつか?
そう言いながら、リュウの後ろにそっと隠れていた私の姿をあっさりと受付の人に見せた。
朝倉 沙耶
(はぁー?何考えてんだ!?こいつは!?)
そう思いながら、顔を見られないようにフードをもっと深く被る。
受付の人の鼻がビクビクと動かし…次の瞬間、
受付の人
こいつじゃ!人間って言うのは!
朝倉 沙耶
ひぃっ!
ドンッ!!
受付の人
…!?
何の音かと思えば机を叩いた音だった。

受付の人の叫び声を消すためにわざと叩いた…?
リュウ
ははっ、縁起でもないことを…
リュウ
こいつは、彼女でな
リュウ
ドブに落ちてしまったから変な匂いしてるのでは?
朝倉 沙耶
か、か、彼z…
こんな嘘、通じるわけが無い!!
受付の人
わははっ!そういうことか!
通じるのかい!! 

ちょっと疑うのが普通じゃないの…。
リュウ
ははっ、ではチケットを
チケットを受け取り…さっさとこの場を離れた。
受付の人
彼女〜大切にせぇよ!リュウ!
そういう声が聞こえた。

リュウは、右手を上げて応えた。



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朝倉 沙耶
ね、ねぇ
リュウ
何?
朝倉 沙耶
知り合い?
さっきの人、リュウのことを名前で呼んでた。
リュウ
あぁ、ちょっとな
気がつけば女湯の前まで来ていた。
朝倉 沙耶
あ、
リュウ
ほれ、チケット
チケットを受け取りながら説明を聞く。

この先は、1人で入り…、

ちょっと歩いたら1人の仲居さんがいる。

そこでチケットを渡し、


その後は、普通にお風呂に入るだけ。
リュウ
はい、タオルな
朝倉 沙耶
あ、ありがとう
リュウ
あ、誰にも話すなよ?
リュウ
後、仲居さんからの誘いには乗るな
リュウ
その2つは、守れよ
朝倉 沙耶
う、うん…
なんか不安だ…。

ここまではリュウが引っ張ってくれたから、
なんも考えずにただ黙ってついて行ったから、楽だった。


もしリュウと出会ってなかったら私は、今頃…………。
リュウ
なんだ?俺は男だから一緒には入れねぇよ?
朝倉 沙耶
わ、分かってます!!


タオルをギュッと抱きしめて…女湯へ踏み出した。






・誰にも話さないこと。

・仲居さんの誘いに乗らないこと。




《たったこの2つを守ったらいい話だった。》


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