『黙ってついてこい。』
と言われたもんだから、黙ってリュウを追いかけて歩いた。
確か昨日の夜見かけたでっかい建物だ…。
変わらず湯気がたくさん出ている…。
またリュウは、口を閉じる。
冷たい目で睨んでくるので口を閉じた。
この目、怖いからやめて。って言いたいほど怖い。
ハッと笑い出すリュウに対し、青ざめる私…。
「こんな湯屋に行くお前の方が馬鹿だ!!」
というのは心に閉まっておこう。
言われて周りを見ると…1人、2人…私を見ている…
さっきの言葉は、取り消します…。
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《受付》
と言いながら、はい。と手を出すちょっとひげを生えた猪みたいなおっさんの受付の人…。
渡したのは…お金…なのかな?……小判だ…。
小判なんだ……小判なんだね……。
なんか思ってた不思議な物じゃなく…
シンプルに同じお金じゃなくて日本が昔使ってた小判…。
なんかどう反応すればいいのか分からずポカーンとしていた。
この言葉にハッと我に返る。
え?名前で呼んだ?知り合い…?
ばっと笑顔が消えて真顔で《人間》という言葉を口にする。
そう言いながら、リュウの後ろにそっと隠れていた私の姿をあっさりと受付の人に見せた。
そう思いながら、顔を見られないようにフードをもっと深く被る。
受付の人の鼻がビクビクと動かし…次の瞬間、
ドンッ!!
何の音かと思えば机を叩いた音だった。
受付の人の叫び声を消すためにわざと叩いた…?
こんな嘘、通じるわけが無い!!
通じるのかい!!
ちょっと疑うのが普通じゃないの…。
チケットを受け取り…さっさとこの場を離れた。
そういう声が聞こえた。
リュウは、右手を上げて応えた。
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さっきの人、リュウのことを名前で呼んでた。
気がつけば女湯の前まで来ていた。
チケットを受け取りながら説明を聞く。
この先は、1人で入り…、
ちょっと歩いたら1人の仲居さんがいる。
そこでチケットを渡し、
その後は、普通にお風呂に入るだけ。
なんか不安だ…。
ここまではリュウが引っ張ってくれたから、
なんも考えずにただ黙ってついて行ったから、楽だった。
もしリュウと出会ってなかったら私は、今頃…………。
タオルをギュッと抱きしめて…女湯へ踏み出した。
・誰にも話さないこと。
・仲居さんの誘いに乗らないこと。
《たったこの2つを守ったらいい話だった。》
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。