元の世界へ…戻る?
でも、何故私がここに連れてこられたのか…
本当の自分の事とか…分からずのままに済む…。
《戻るのは、後でも大丈夫じゃないの?》
……知りたい。
本当の自分は……何者なのか。
お兄ちゃんの手を貸さずに自分の足で立ち上がった。
そして、精一杯笑ってみせた。
もう戻れない。
私は、今から危ない道を歩いていくことになる。
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そこから、山を降りて…別の街に寄り…必要な物を買いまくった。
金は、意外と兄がたくさん持っていた。
見立たない地味色の深緑のマントを被せる。
そして、バッグから紐と小さな剣を取り出した。
太陽の光が当たり、光る剣を布で覆い…腰にかけた。
〜〜見慣れた看板。
まだ午前なのだから美味しそうな匂いはないのだけど…。
大好きな店の前に私は、足を止めていた。
((ガチャー。
なんも返事はない。しーんと静けさが広まったキッチン。
キッチンを通して、少しの間過ごした自分の部屋に向かった。
頭まで被ったマントを少し外して、周りを見つめた。
タンスを開け、今まで働いて少しだけ溜まったお金を取り出した。
声がし、さっさと振り返るとそこは棒を持ったナナがいた。
私の顔を見て、怪しい人じゃないと知って安心したのか…棒を離して私のところに飛びついてきた。
ナナは、心が優しい人だ。
少しの変化に気がつき、優しい手を伸ばしてくれる。
初めて出会った時もそうだったね。ナナ。
少し震える私の手をしっかり握りながら話を聞くナナ。
まるで自分のことのように心配してくれる。
昨夜なんて…ナナは、リュウに眠させられた。
眠るだけで良かったのだけど…今度はどうなるのか分からない。
突然告げられる言葉に私は、固まった。
微笑むけど…目が悲しそうだった。
そこまで言われるとは思わなくて…私は、ナナの優しさに嬉しさが溢れだしてきた。
ナナは、私の手から…手を離し…頷いた。
リュウ という名前を挙げてから、ナナの顔はみるみる酷くなっていった。
ちょっと冷たい言い方に私は不安になった。
なんか禁断の蓋を開けてしまったみたいな気分だった。
兄は、外で待っているー。何なら今すぐ兄を連れて来たかったぐらいだ。
震える腕を必死に堪えながら…ナナは、口を開いた。
リュウが…キョーナ様の部下?
あの…人間を嫌う恐ろしい…あの人の……?
その時、ふと思った。リュウと一緒に赤居温泉に行った。
人間の匂いを消すためと言ったが…、本当は私をキョーナ様の所へ連れ出すためだったら?
キョーナ様の部下だと知り、不安が溢れだしてくるけど…
それでも答えは決まっている。
知りたいことがあるから。私はー、
微笑んで答えた。
ナナも、その以上言っても無理だろうと理解していたので…微笑んで、
だけを 答えた。
いいよ。と言わずに…ナナは、もう一度強く抱きしめてきた。
すすり泣き声が微かに聞こえた。
ほんわりとしたナナの花の匂いに包まれて…私は、心が穏やかになった。
そして、暖かい体温も離れていき…
手も離して…
優しい視線を感じながら…私は、マントを深く被って…
この場から、離れた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。