少しずつ私に近づいてきて目の前に止まる…。
真っ黒で長い髪の毛…。
長いまつ毛…。
高い背に冷たい目…。
嫌な笑顔を浮かべる。
唾を飲み込む…。
次の瞬間私の髪の毛を掴むと、強く引っ張り出した。
髪の毛を鼻に近づいた。匂いがするのか確かめているのかな…?
髪の毛を離すとこう言った。
良かった。匂いは、ちゃんととれているんだ…。
それならバレな…
ドンッ!!!!!
何の音かと思えば…机を蹴った音。
すぐに答えずにいると……
ドンッ!!!!!
また暴れ出した。
怖い……怖い………。
どう逃げよう??
どうやったら逃げられるのだろう??
ドアはどこだ…ドアはどこ??
私は、キョーナの話なんて聞いてなかった。
手に、ドアノブが当たる…。
机にあったナイフを手にすると私に向かって投げてきた。
サッ!!
暖かい液体が頬を伝って落ちていく…
はぁはぁはぁ……
ポタっポタっ……
床に赤いのが落ちていく…。
横を見ると、目のすぐそこにナイフがあった。
左手で頬を触る…。
『痛い』
私は、なんて馬鹿だ。
何故こんな所に来た?
カツ、カツ、カツ……
近づいてきて…ドアに刺さったナイフをとる…。
私は、震えていて声さえも出なかった。
首に冷たいものが当たる。ナイフだ。
早く答えないと……またなんかされる……。
それなのに口が開かないんだ…。
今度は、左腕に痛みを感じた。
早く言わないと……
納得出来ないのか…理解出来ないのかキョーナは、もっと目を細めた。
キョーナは、私から離れて再びソファーに腰をかけた。
チリン……チリン……。
………え?鈴の音?
チリン…チリンチリン…。
そう答えると…キョーナは、ため息をついた。
さっき鳴ったから…今は、昼の12時…。
やばい、またイラついてしまった…?
………、
ガシャーン!!!
次の瞬間何かの音が響いた。……何!??
窓が割れて……誰かが入った??
恐る恐る目を開くと……目の前には……、
見覚えのある…姿。
何回か会って…でも実際には会ってなくて…
知っているけど…今初めて会えて……。
目の前には……あの白い龍がいた。
「あんた」って……知ってるの……??
低くて優しい声……。
しかし、龍は首を振った。
龍は、私の方を見て…こう囁いた。
私は、言われた通りに背中に乗って…ちゃんと掴んだ。
次の瞬間、グイッと割れた窓から外に出て…空へ飛んだ。
後ろからには、キョーナの叫び声が聞こえた。
怖そうで悲しそうな叫び声……。
でも、決して振り返さなかった。
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青い空を飛んでいる龍にそっと言った。
綺麗な白い毛で…立派な髭…。
あなたに聞きたいことが沢山あるの。
話したいことも沢山あるの。
ずっとずっと…会いたかった…。
実際にいた……。夢だと思った。
ねえ、あなたならなんか知ってるんでしょう?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!