『沙耶は、どこなの…!?』
誰かが私の名前を呼んでる…。
私は、そっと目を覚ました。
私は、自分の部屋にいた。
戻ってる…!?
さっきのは夢…?とちょっとほっとでもしたけど…
なんとなく胸騒ぎがしたー。
『沙耶…!!』
階段から登る音がする。
『ちゃんと早く起きたよ、お母さん。』
ドアノブをゆっくり回し、開けてきた。
そこは、半泣きのお母さんがいた。
ベッドから立ち上がり…お母さんの方へ近づく…。
お母さんも泣きながらこっちに来る。
《なんで泣いてるんだ…??》
次の瞬間…分かった。その原因が…なんとなく。
手を伸ばす私を通り過ぎてお母さんは、
私の後ろにあるベッドに崩し倒した。
お母さんは、顔を俯きながら呟く…。
何言ってるの?ここに居るよ……?
お母さんは、顔を上げて私の方へ振り返った。
一瞬、私のことが見えたのか期待したけど…
そう言い…まだすすり泣くのだった。
時間は、朝の6時半だった…。
チリン…チリンーー。
あっ、まただ…。
確か…あの時もこの鈴の音がして……!!!
慌てて振り返ると…そこには、昨日見た夢の中の…
白い毛をした龍がいた。
ぽかーんとしている私は、悲しそうな目をしている龍と…ずーっと見つめ合っていた。
そして、聞こえた言葉…。
『ごめんな。』
龍って喋られるの…?
ごめん。ってどういう事?
君がここに連れてきたの?ねぇ……答えてよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
見慣れない天井…。
寝慣れないベッドの上に私はいた。
周りを見ると…机に椅子…。
私の部屋じゃない…。
その時…ハッとした。そっか昨日の出来事は本当なんだな…。
ほっぺをつねってみたが痛いので…現実だと認めることにした。
さっき見た夢は…夢じゃなくて…こっちの世界で本当に起こってる出来事…?
となれば……、こっちの世界と、この世界の時間は同じだと確認は出来た。
こっちも6時半よりちょっと過ぎてるけど…
だいだい時間は、同じだ。
お母さん…心配かけているんだね…。
ごめんね、出来るだけ早く帰ってくるから。
待っててー。
それしても、あの龍は…何だったんだろう?
【カーテンを開ける音】
飛んでくるタオルをキャッチすると…
リュウは、すぐカーテンを閉めて
『ご飯だ。』
と言い残して行った。
足音が遠くなる…。
なんでタオル…?
えっ……、私……。
涙が次々と溢れてきて止まらなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
洗面所を教えてもらい、顔を洗うと…
朝ごはんを食べた。
普通に美味しかった。
でも、お母さんの朝ごはんが食べたかった。
昨日たくさん動き回ったからなのか、汚れた制服を…
この世の服に着替えた。
顔を隠せるようにするためなのか…パーカーと、
動きやすいようにちょっと余裕があるズボンだった。
リュウは、ソファーに座って何かを飲んでいた。
布団もあったので昨日の夜はここで寝たのだろうか。
深く顔を下げて、この家から出ていこうとした時…
リュウが口を開いた。
私は、足を止め…振り返る。
冷たい目で…低い声でそう言って見つめてくる…。
辛うじて帰れると希望を持って…頑張ろうと思っていたのに…、
その希望が…一瞬にして消えた。
誰も、元の世界に帰れた例はない だって?
私は、足がふらついて地面にお尻がついた。
それでも、話は続く…。
『生きるか?』 『死ぬか?』
生きてても帰られない?
ならば死んだ方がいい?
でも死んだら、一生お母さんや、友達…
みんなのことが忘れてしまうかもしれない。
生きててどうなるの??
わかんない…けど…けど……
そうだ…こんなことでサッパリで諦めて死んでしまうなんて、私らしくない。
まだ可能性は、0%じゃない…。
もう少し…頑張ろうよ。
まだ始まったばかりだ。
私は、顔を上げてリュウの目をじっと見つめた。
リュウは、そう言い、ちょっとため息をついたが…少しだけ微笑んだ気がした。
どこからか、コートを取り出すと私に向かって差し出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
明るくなった街は、昨日見た街とちょっと違って見えた。
明るくなったから昨日暗くて見えなかった物も見えてきた。
本当に少しだけ和風みたいな街だった。
それだけで少しだけほっとする。
突然前に歩いていたリュウが止まるものだから、私はリュウの背中に鼻をぶつけた。
なんか聞いたことある…。
あ、昨夜、誰かが言っていたな…。
《赤居温泉》に行くのに【覚悟】するってどういうことーー!?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!