この世にもう少し残ると決めてから、少し時がたった。
キョーナ様は、ラリーナと共に久しぶりに人々の前に顔を出した。
珍しいことでみんな騒いでいた。
城のベランダから、キョーナ様はゆっくりと語りだした。
隣にいるラリーナも、下から暖かく見守る私達も…
驚いた目で見るみんなも…じっと声をすませていた。
キョーナ様は、みんなの前で頭を下げた。
続けてラリーナも、お願いします。と言い…頭を下げた。
騒ぐ中、1人の女の人が叫んだ。
頭を下がり続ける2人に。
その人は、私が知っている人だった。大好きな友達だった。
ボロボロな私を助けてくれて、働く場を…寝る場を与えてくれた人。
太陽みたいな笑顔が印象的な人。
遠くで叫ぶナナを私は、驚きながら見ていた。
キョーナ様も、顔を上げてちゃんとナナの言葉を受け止めていた。
ナナは、両手をぎゅっと握りしめるとまた口を開いた。
私のことだとすぐに分かった。
そんなに私のことを大切に思ってくれているなん…嬉しかった。
周りはそうすぐに受け止められない状態だった。
それでもいい…1歩ずつ、いつか仲良くなれたらいいな。
私は走った。ナナの方へ。
ナナは、こっちに振り返る。
そして、驚いた目をする。
私は、手を広げる。
ナナも、泣き笑いながら私を受け止めた。
私は、強く…抱きしめた。
そんな状態を少しの間見つめてからキョーナ様は、口を開いた。
頭を下げるナナ。私も頭を下げた。
その姿や、会話を見て人々も少しだけ納得出来たのだろうか。
1人が拍手した。それに続けてもう1人が拍手した。
だんだんそれは大きくなって気がつけば、みんな笑顔で拍手していた。
…大丈夫。きっとこの世は優しくて暖かい世界になる。
《夜》
私達は、丸く囲みながら座って何気ない話をした。
多分、その日がこの世での《最後の夜》になる。
お兄ちゃんは、顎に指を当てて顔をかしげる。
目を輝かせてその話を耳をすませる私達を見ると、ラリーナお母さんは静かに笑った。
そして、リュウを笑顔で見ながら言った。
みんな、リュウを見つめるとリュウは恥ずかしそうに俯いた。
リュウは、どういたしまして。と笑顔で言った。
その後もたくさん話をした。笑いあった。泣きあった。真剣な話もした。
その夜はとても長く感じた。
そして、別れの時がきた。お兄ちゃんは、目で私を見てくる。
私は、うん、もういいよ。と頷く。
みんな、振り返っては「なに〜?」とたずねる。
言った瞬間、ラリーナお母さんが1番悲しそうな目をした。
分かってた。分かっているけど寂しいという顔だった。
そう言った瞬間、ちょっと冷たい風が私たちの間を吹いて行った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。