第4話

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2022/08/15 05:59
森川もりかわ翔子しょうこ
あーっ、疲れたぁぁ
 私は部屋に入るなり、荷物を投げ出してごろんと寝そべった。エアコンが早く効いてきて欲しい、そう思う季節になってきた。そうしているうちに、なにかの気配を感じた。
上原うえはら琉愛るあ
翔子おかえりー、地球温暖化の原因である温室効果ガスの代表的なものは?
森川もりかわ翔子しょうこ
えと、二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素とフロンガス!
上原うえはら琉愛るあ
そうそう!流石翔子!
 もちろん琉愛だった。琉愛は、私が寝そべるなりいきなり問題を出してきた。琉愛は、協力すると言った高2のあの日から、ことあるごとに突然問題を出してくるようになった。唐突に問題を出してくるのにはいつもびっくりするけど、そのおかげでだいぶ答えられるようになっていていて、かなり万全に試験に臨めるくらいになっていると思う。琉愛のおかげだ。感謝している。
 そんな琉愛は、暇だー、と言って私の上に乗ってきた。が、それなのにあまり圧迫感がない。さては、と思い口を開く。
森川もりかわ翔子しょうこ
……軽くない?また痩せた?前よりもまた軽くなってる気がするけど。
 琉愛は、少しぎくっとした顔をして言う。
上原うえはら琉愛るあ
………そんなことないんじゃない?
森川もりかわ翔子しょうこ
逃げようたって、そうはいかないよ。最近、ご飯ちゃんと食べてないでしょ。ちゃんと食べないと、不健康になるよ?
上原うえはら琉愛るあ
……でも……た……で……
 琉愛は何か口にしたが、ごにょごにょ言っていてよく聞き取れなかった。
森川もりかわ翔子しょうこ
え?なんて言った?
上原うえはら琉愛るあ
ううん、なんか最近ちょっと食欲がないくらいなだけだけら、全然平気だよ、夏バテかな?
森川もりかわ翔子しょうこ
ふーん、いいですね、いくら食べても太らない人は。
上原うえはら琉愛るあ
翔子も十分スタイル抜群だからいいっしょ。
 嫌味も込めてそう言うと、何食わぬ顔でそう返してくる。
上原うえはら琉愛るあ
んで、そんなことより、だいぶ疲れてるみたいだけど大丈夫?
森川もりかわ翔子しょうこ
あぁ、最近勉強も部活結構忙しくて……ちょっと休養が足りてないかも。部活の大会が近いから休む暇がないっていうか。
 うちの高校は、そこそこ運動部が強いため、スケジュールがかなりハードなのだ。また、もう高3の夏、ということもあり、あまり休めていないのだ。
上原うえはら琉愛るあ
そっかぁ、頑張るのも大事だけど、ちゃんと休憩もとってね?睡眠不足で授業の内容分からなかったり、ふらふらしてこけたりして……なんて、シャレにならないからね?
 心配そうに覗き込んでくる琉愛を、はいはい、となだめながらドアの方へ向かった。
上原うえはら琉愛るあ
どっか行くの?
森川もりかわ翔子しょうこ
うん、ノートなくなっちゃったから、ちょっと買いに。
上原うえはら琉愛るあ
ふーん……気をつけて行ってきてね。
笑顔で見送ってくれた琉愛に、私も手を振り返して家を出た。



そのあと、部屋に一人になった琉愛は、水を飲もうとコップを手に取った。が、そのコップは琉愛の手から抜け落ちて割れてしまった。琉愛の足元に水が飛び散る。
上原うえはら琉愛るあ
…………また、やっちゃった。
 琉愛は悲しそうに呟いて、そのままガラスの破片を拾い始めた。
 
・ーー・ーー・ーー・ーー・
 
森川もりかわ翔子しょうこ
あー……疲れた……
 そんなひとりごとを言いながら文房具屋から出た。夕方だというのに、まだじりじりとした暑さだ。日々の疲労と相まって、近くの文房具屋に行くのすら億劫になったくらいに。
 じめじめと湿気がまとわりついてくる。家からの距離的には約5分ほどのはずなのに、暑さやら疲労やらのせいか、家までの道のりが長い気がする。めんどくさがって歩きで来たのを後悔する。自転車で行けばよかったかなとぼんやり信号待ちをしていた。





 遠くから、破壊音が聞こえてきた気がしだ。



 次いで、人々の、悲鳴のような叫びも。




  私はそこでやっと我に返った。






 そして そちらの方を見てみると
      目の前には____




△ ▽ △







プルルルル プルルルル
 森川家の自宅の電話が呼び出し音を鳴らした。
 その音に気がついた翔子の母は、受話器を取る。
翔子の母
はい、もしもし。
 最初は普通の様子で会話を始めた。
 が。
翔子の母
…………え……?翔子が……?
 突然、彼女の顔の血の気が引いていった。



 その様子を陰から見ていた琉愛も同じように、頭が真っ白になったような感覚に襲われた。
 

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