私は部屋に入るなり、荷物を投げ出してごろんと寝そべった。エアコンが早く効いてきて欲しい、そう思う季節になってきた。そうしているうちに、なにかの気配を感じた。
もちろん琉愛だった。琉愛は、私が寝そべるなりいきなり問題を出してきた。琉愛は、協力すると言った高2のあの日から、ことあるごとに突然問題を出してくるようになった。唐突に問題を出してくるのにはいつもびっくりするけど、そのおかげでだいぶ答えられるようになっていていて、かなり万全に試験に臨めるくらいになっていると思う。琉愛のおかげだ。感謝している。
そんな琉愛は、暇だー、と言って私の上に乗ってきた。が、それなのにあまり圧迫感がない。さては、と思い口を開く。
琉愛は、少しぎくっとした顔をして言う。
琉愛は何か口にしたが、ごにょごにょ言っていてよく聞き取れなかった。
嫌味も込めてそう言うと、何食わぬ顔でそう返してくる。
うちの高校は、そこそこ運動部が強いため、スケジュールがかなりハードなのだ。また、もう高3の夏、ということもあり、あまり休めていないのだ。
心配そうに覗き込んでくる琉愛を、はいはい、となだめながらドアの方へ向かった。
笑顔で見送ってくれた琉愛に、私も手を振り返して家を出た。
そのあと、部屋に一人になった琉愛は、水を飲もうとコップを手に取った。が、そのコップは琉愛の手から抜け落ちて割れてしまった。琉愛の足元に水が飛び散る。
琉愛は悲しそうに呟いて、そのままガラスの破片を拾い始めた。
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そんなひとりごとを言いながら文房具屋から出た。夕方だというのに、まだじりじりとした暑さだ。日々の疲労と相まって、近くの文房具屋に行くのすら億劫になったくらいに。
じめじめと湿気がまとわりついてくる。家からの距離的には約5分ほどのはずなのに、暑さやら疲労やらのせいか、家までの道のりが長い気がする。めんどくさがって歩きで来たのを後悔する。自転車で行けばよかったかなとぼんやり信号待ちをしていた。
遠くから、破壊音が聞こえてきた気がしだ。
次いで、人々の、悲鳴のような叫びも。
私はそこでやっと我に返った。
そして そちらの方を見てみると
目の前には____
△ ▽ △
プルルルル プルルルル
森川家の自宅の電話が呼び出し音を鳴らした。
その音に気がついた翔子の母は、受話器を取る。
最初は普通の様子で会話を始めた。
が。
突然、彼女の顔の血の気が引いていった。
その様子を陰から見ていた琉愛も同じように、頭が真っ白になったような感覚に襲われた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!